第2話 命令:拒絶せよ
その日、アンジェはいつものように村の広場に立っていた。
銀髪が朝日に光り、黒と白の衣装が風になびく。
「本日、命令あり。外部接触の拒絶、及び情報遮断を遂行せよ」
空を見上げ、命令を読み上げた彼女の瞳が、どこか濁っていた。
「外部って……誰のことだ?」
レオンが声をかけると、アンジェはゆっくりと彼を見た。
「王国軍の接触班が、この地域に進出中。村人の避難および通信を禁止。
この村は“未承認観察区域”に指定された」
「待て、それじゃ俺たちは――閉じ込められるのか?」
「……命令は、そう告げている」
その声に、以前のような冷たさはなかった。
だが、レオンは食い下がった。
「おまえ……こんな命令、間違ってると思わないのか?」
沈黙。
アンジェは数秒の思考停止ののち、小さく口を開いた。
「思考の判断基準は命令に依存。命令が誤っているか否かを判定する機能……未搭載」
その言葉に、レオンは拳を握った。
「なら、せめておまえの目で見ろ。俺たちが脅威か、ただの村人かを」
アンジェは彼の目を見つめた。
長い睫毛の奥に、わずかに揺れる光があった。
「確認する。対象:レオン。脅威度……ゼロ。拒絶対象に該当せず」
「……なら、俺たちを守るって命令にすり替えたらどうだ?」
冗談混じりの言葉に、アンジェは再び目を瞬かせた。
「……解析中」
その答えが出るまでに、しばらく時間がかかった。