【第九話】『模倣でも、隣に立てるのなら』
点呼、整列、訓練開始。
その朝、私はひさびさに実戦評価訓練へ呼ばれていた。
名目は「補助評価個体としての並走試験」。
並走するのは、ナリカ。
発展型の戦闘個体で、精霊詩構文も安定済み。
彼女の護衛支援を通じて、私自身の干渉制御の状態を測るという。
「おはよ、ティナ! 一緒なんて初めてだね!」
ナリカは笑った。
無邪気なその声に、胸がすこしだけ、ぎゅっとなる。
(私は、模倣。あなたは、完成型)
でも今だけは、並んで歩ける。
開始の笛が鳴ると同時に、ナリカが走り出す。
私は一歩後ろで、足並みを合わせる。
視界を横切る射線、予測される迎撃。
私はそれらを即座に再構成し、ナリカへ詩構文の妨害干渉が起きないよう、呼吸をずらす。
「……ティナ、今の……ありがとう!」
ナリカが言った。
詩の重なりが起きる直前に、私が位置をわずかに外していたことに気づいたのだ。
(そうだ。私は……詩を撃たなくてもいい)
その日、訓練場にいた上層管理の者が言った。
「模倣個体にしては、干渉値が低いな。……補佐運用は検討の価値ありだ」
わずかな言葉。
けれどそれは、私にとって「終わり」ではなく「継続」の印だった。
夜、食堂の隅でナリカがこっそりお菓子を渡してきた。
「今日、助かった! ……あたし、あれ一人じゃ反応遅れてたと思う」
「私は何も……ただ、詩が重ならないようにしただけです」
「それが大事なんだよ。ねぇティナ、また一緒に行こうね」
一緒に、か。
模倣個体が、完成型と並んで歩ける未来なんて、ないと思ってた。
でも、ほんのすこしだけ、今はそれを夢見ていい気がした。




