表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/22

【第七話】『それでも私は、“あの詩”が好きだった』

部隊詩──戦場で使われる、決戦詩構文のひとつ。味方全体の士気と精霊反応率を引き上げる“鼓舞”の詩。


ティナには、それが扱えない。

だが、それでも──


「あなた、またあの録音流してるの?」


ナリカの問いかけに、ティナは微かに頷く。


「はい……好きなんです、あの詩」

「でも、自分じゃ歌えないのに」

「……ええ。でも、好きなんです」


録音装置から流れる、初期詩兵たちの“部隊詩第13構文”。

朴訥なリズム。単純な言葉。けれど力強く、温かい。


誰かが誰かのために歌った詩。

精霊と契約する前の“普通の人間”だった時代の詩兵たちが、自分の意志で歌っていた歌。


──今のわたしには、真似すら許されない。


けれど、聞くだけなら、罪ではない。


「きっと、あれを好きって思う子が他にもいるよ」

「……そう、でしょうか」

「うん。少なくとも私は、あんたがその録音流してるの、好きだよ」


ナリカが、くしゃっと笑った。


「なんか、あれ聴いてると……“戻れる気”がするんだよね」


──戻れる。

それが、どこを指しているのかは、わからない。

けれど、わたしも同じ気持ちだった。


「ナリカさん」

「なに?」

「……ありがとうございます」


わたしの声は、詩にはならない。

けれど、これは精霊詩ではない。

ただ、わたしの“ことば”だった。


その夜、ティナは録音装置の再生ボタンを押し、“あの詩”をそっと流す。


夜の廊下に、かすかに旋律が響く。

それは、誰にも聞こえないくらいの音量で──けれど確かに、そこにあった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ