【第七話】『それでも私は、“あの詩”が好きだった』
部隊詩──戦場で使われる、決戦詩構文のひとつ。味方全体の士気と精霊反応率を引き上げる“鼓舞”の詩。
ティナには、それが扱えない。
だが、それでも──
「あなた、またあの録音流してるの?」
ナリカの問いかけに、ティナは微かに頷く。
「はい……好きなんです、あの詩」
「でも、自分じゃ歌えないのに」
「……ええ。でも、好きなんです」
録音装置から流れる、初期詩兵たちの“部隊詩第13構文”。
朴訥なリズム。単純な言葉。けれど力強く、温かい。
誰かが誰かのために歌った詩。
精霊と契約する前の“普通の人間”だった時代の詩兵たちが、自分の意志で歌っていた歌。
──今のわたしには、真似すら許されない。
けれど、聞くだけなら、罪ではない。
「きっと、あれを好きって思う子が他にもいるよ」
「……そう、でしょうか」
「うん。少なくとも私は、あんたがその録音流してるの、好きだよ」
ナリカが、くしゃっと笑った。
「なんか、あれ聴いてると……“戻れる気”がするんだよね」
──戻れる。
それが、どこを指しているのかは、わからない。
けれど、わたしも同じ気持ちだった。
「ナリカさん」
「なに?」
「……ありがとうございます」
わたしの声は、詩にはならない。
けれど、これは精霊詩ではない。
ただ、わたしの“ことば”だった。
その夜、ティナは録音装置の再生ボタンを押し、“あの詩”をそっと流す。
夜の廊下に、かすかに旋律が響く。
それは、誰にも聞こえないくらいの音量で──けれど確かに、そこにあった。




