【第六話】『祈れない私に、手紙が届いた』
夜間点検が終わり、居住ユニットに戻ると、わたしの机の上に封筒が置かれていた。
薄青の便箋。
小さな花の封蝋。
宛名は──手書き。
『模倣詩型ノクシア《ティナ》へ』
思わず息をのんだ。
ノクシアへの私信など、まず許されていないはずだ。
それでも、宛名の下には小さく記されていた。
『※戦闘記録報告内の付属データとして提出済』
……ずるい。
そう思った。
けれど、封を切った手は止められなかった。
便箋に綴られていたのは、簡素な、けれどまっすぐな言葉だった。
『きみのおかげで、命が助かりました。ありがとう』
『あの時、詩が暴走して、自分でも何が起きたかわからなくなった』
『でも、きみが間に入って、全部引き受けてくれた』
『名前も知らない君に、どうしても伝えたかった』
『あなたの存在が、誰かを助けたんです』
そこには署名もなかった。
でも、きっと演習で暴走したあの詩兵の誰かだ。
わたしは、声を上げて泣くこともない。
目を潤ませることもない。
──けれど、何かが、静かに胸に落ちていった。
祈れない。
歌えない。
でも。
──それでも、ありがとうと言ってくれる人がいた。
机の上に、花の封蝋をそっと置いたまま、
わたしはその夜、ひとり静かにベッドへと戻った。
そして、次の日から少しだけ。
誰にも気づかれないように、制服の内ポケットに、その便箋を入れて出撃するようになった。
わたしの詩は響かない。
けれど、わたしがいたことは、誰かの中に残っていた。
──それが、ただの記録の中だけでも。
それでも、もう少しだけ、生きてみたいと思った。




