表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

【第六話】『祈れない私に、手紙が届いた』

夜間点検が終わり、居住ユニットに戻ると、わたしの机の上に封筒が置かれていた。


薄青の便箋。

小さな花の封蝋。

宛名は──手書き。


『模倣詩型ノクシア《ティナ》へ』


思わず息をのんだ。


ノクシアへの私信など、まず許されていないはずだ。

それでも、宛名の下には小さく記されていた。


『※戦闘記録報告内の付属データとして提出済』


……ずるい。

そう思った。


けれど、封を切った手は止められなかった。


便箋に綴られていたのは、簡素な、けれどまっすぐな言葉だった。


『きみのおかげで、命が助かりました。ありがとう』

『あの時、詩が暴走して、自分でも何が起きたかわからなくなった』

『でも、きみが間に入って、全部引き受けてくれた』

『名前も知らない君に、どうしても伝えたかった』

『あなたの存在が、誰かを助けたんです』


そこには署名もなかった。


でも、きっと演習で暴走したあの詩兵の誰かだ。


わたしは、声を上げて泣くこともない。

目を潤ませることもない。


──けれど、何かが、静かに胸に落ちていった。


祈れない。

歌えない。

でも。


──それでも、ありがとうと言ってくれる人がいた。


机の上に、花の封蝋をそっと置いたまま、

わたしはその夜、ひとり静かにベッドへと戻った。


そして、次の日から少しだけ。


誰にも気づかれないように、制服の内ポケットに、その便箋を入れて出撃するようになった。


わたしの詩は響かない。

けれど、わたしがいたことは、誰かの中に残っていた。


──それが、ただの記録の中だけでも。


それでも、もう少しだけ、生きてみたいと思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ