【第四話】『“祈らない詩兵”にも、帰る場所があった』
帰還命令が下る。
戦果は限定的。
損耗は予想より少ない──ただし、それは、別の部隊が犠牲になったということだ。
ノクシアの世界に“完全な勝利”はない。
輸送機の中、わたしは静かに座っていた。
隣に座るナリカが、ふと声をかけてくる。
「ねえ、ティナちゃん。戻ったら、ココア飲もう」
「……ココア?」
「支給品だけど、ちょっと甘くてあったかいやつ」
わたしは頷く。
ほんのすこし、無意識に。
それに彼女は、にこっと笑った。
「よし、じゃあ帰還後の目標決定。ココアで乾杯!」
それは、戦場の言葉としては、あまりに無防備だった。
でも。
──なんだか、嬉しかった。
拠点に戻ると、機材点検や報告作業が始まる。
わたしは毎度のごとく“特異詩調整班”に回される。
検査の名目だが、実際は“他個体への干渉”が起きていないかを確認するための隔離だった。
「……やっぱり、わたしはバグなんだ」
呟いたつもりはなかった。
でも、扉の向こうで聞いていた誰かが、はっきりと返す。
「違うよ」
ナリカの声だった。
「ティナちゃんは、誰よりもちゃんと戦ってる。声が出ないだけで、詩は、ちゃんと伝わってる」
「……でも、わたしの詩は──」
「祈るのが“詩”なら、守ろうとする気持ちも“詩”だと思う」
そう言って、扉の前にココアの入った紙カップを置いた。
「飲めたら、飲んで。さっき言ったでしょ。乾杯するって」
カップは、ほんのりあたたかかった。
けれど、なによりあたたかかったのは、
──自分の居場所が、ここにある気がしたことだった。




