【第一話】『詩なき兵、笑わない少女』
──詩が響かない。
それが、わたしに与えられた不具合だった。
この世界では、精霊詩と呼ばれる力がすべての礎になっている。
空を裂く光も、大地を癒す風も、誰かを守る盾も、精霊との“契約の詩”によって編まれる。
けれど、わたしの詩だけは、どうしても“歌”にならなかった。
「ティナ、おまえ、また……」
作戦指揮官の声が遠く聞こえる。
肩を切り裂かれ、地面に伏せたわたしの耳には、怒号よりも静けさが重かった。
わたしの詩は、誰にも届かない。
精霊とのリンクは確かに存在する。
応答もある。契約も異常はない。
でも、いざ“詩”を発動すると、なぜかそれはただの呪詛のように変質する。
その結果──味方の精霊詩が乱れ、敵味方の区別なく力が暴走する。
「すみません……」
「いいや、わたしが悪い」
通信越しの声。
ノイズ混じりのそれは、いつも優しかった。
わたしを責めないでくれる。
だけど、それがいちばん、つらかった。
わたしは、詩を使うたびに、誰かの足を引っ張る。
それでも、処分はされない。
なぜなら、わたしは“プロトタイプ”だから。
──ノクシア計画、最初期に生み出された疑似精霊契約者。
破棄もできず、保護もできず、ただ“存在し続けている”だけの兵。
「ティナ、今回の件は報告しなくていい」
「……はい」
上官は、わたしの不具合を“隠して”くれる。
事実としての被害は別の個体の“誤爆”と処理される。
優しい嘘だ。
けれど、その嘘が積み重なるたびに、
──わたしは、“詩なき兵”としての輪郭を、ますます強くしていく。
戦果ゼロ。
信頼もなし。
それでも今日も、部隊は出撃する。
誰かが“祈るように歌う”とき、
わたしだけは、その祈りを汚さぬように、
──黙って、ただ剣を抜いた。




