第5話 副演算ユニット、応答せず
仮面の敵が、ティアレを無視して踏み出そうとした。
「排除対象、変更不可」
ティアレが立ちはだかる。
だが、敵は笑った。
「君は非戦闘型だ。止められはしない」
敵の手が刃を構え、斜めに振り上げた――その瞬間。
〈観測遮断ノイズ発生〉
〈副演算ユニット過負荷。緊急停止処理に入ります〉
ティアレの視界が、白くノイズに染まる。
膝が崩れかけたそのとき。
「やめてッ!」
リーシャの叫びが、空気を震わせた。
少女の喉から紡がれた精霊詩が、かすかに森に反響する。
その旋律は、何かを解き放つように、周囲の空気を揺らした。
敵の刃が止まる。腕が震え、仮面の奥で表情が強張る。
「……これが、精霊詩……?」
ティアレは、震える腕で端末を操作した。
〈共鳴反応、外部拡散を抑制。観測データ、送信〉
「もう大丈夫……あなたは、拒絶できた」
リーシャの目から、涙が一筋こぼれる。
仮面の敵は、舌打ち一つ。
「今回は見逃そう。だが次は、詩ごと“消去”する」
そう言い残し、森の闇に溶けるように消えていった。
しばしの静寂――。
風が戻り、鳥が囀る音が響き出す。
ティアレは、端末を静かに閉じた。
「命令……達成。任地、離脱申請中」
そして、ぽつりと、こぼす。
「……副演算ユニット、応答せず」
どこか寂しげに、けれど、笑ったようにも見えた。
リーシャがそっと、ティアレの手を取る。
「また……来てくれる?」
ティアレは答えない。
だが――手を離さなかった。
それが、彼女にとっての「肯定」だった。




