第4話 観測阻害因子:接近中
村の東、森林地帯にて。
ティアレのスコープが、小さな気配の歪みを捉えていた。
〈識別コード未登録〉
〈感情波形:混濁〉
〈擬似精霊との接続反応あり。推定:敵性個体〉
ティアレは隠れるように木陰へ移動し、背後のリーシャに指を立てる。
「ここから先は、危険。戻って」
「でも……ティアレは?」
「私は戦えません。ただ、記録し、位置情報を送信する。だから……逃げて」
少女の手が、不安げにティアレの袖を掴んだ。
「一緒に、逃げよう?」
その言葉は、ティアレの演算を一瞬だけ停止させた。
〈副演算ユニット:再起動中〉
だが、遠くから足音が近づいてくる。乾いた枝が砕け、草が踏みしだかれる音。
そして、森の切れ目に現れたのは――
全身を黒布で覆った、細身の人物だった。顔は仮面で隠され、手には鈍く輝く刃。
「観測ユニット……まさかこの村にいるとは」
「敵性個体。接近を警告します」
ティアレは前に出る。両腕の端末が赤く点滅するが、戦闘機能は搭載されていない。
「ティアレ、だめ……! 逃げよう、お願い!」
リーシャの声が、森の静寂を切り裂く。
――だが、その声に反応したのはティアレではなかった。
仮面の敵が、リーシャのほうを見たのだ。
「……その子か。精霊詩を持つのは」
敵の足が、ゆっくりとリーシャへ向かって踏み出される。
ティアレは、たった一歩でその間に立った。
「この子は……記録対象。排除を許可しません」
その声は、冷たく、けれど――わずかに震えていた。




