第3話 副演算ユニットの過負荷
村の外れ、廃れた教会の跡地。
ティアレは、少女――名をリーシャという――を伴ってそこにいた。
「ここ……昔は、お祈りの場所だったんだって……」
リーシャは、壊れたステンドグラスの破片を見つめて言った。
ティアレは頷いた。が、その反応はほんの一瞬、間があった。
〈副演算ユニット:予測処理に遅延〉
〈感情干渉の疑い。再起動を推奨〉
デバイスが示す“異常”に、ティアレは応えなかった。
「ここにいたら、誰にも見つからないよ。精霊詩を……練習できる」
リーシャが両手を胸元に組み、詩を口にしようとした瞬間――
ティアレの目が鋭く動いた。
「それは、今はやめてください」
「え……どうして?」
「外部からの反応があります。詠唱に共鳴する波形――」
「――敵が来るの?」
ティアレは静かにうなずいた。だが、その直後、リーシャの手を取って小さく呟く。
「……けど、大丈夫。敵意は……まだ弱い」
「わたしのせい?」
リーシャが顔を伏せる。
ティアレの処理ユニットが再び警告を発する。
〈共鳴反応強度:上昇中〉
〈副演算ユニットへの負荷:累積〉
ティアレは目を閉じた。
そして、冷たい声ではなく――初めて自分の意思で、言葉を紡いだ。
「リーシャの詩は、敵意を呼んでいない。……ただ、誰かに届いた。それだけ」
風が吹いた。廃れた教会に差し込む光が、少女たちを照らす。
「……だったら、怖くない……」
リーシャの声に、ティアレの頬がかすかに緩んだ。