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ぼくの8月の七夕

 7月の7日だけ、織姫と、彦星が出会うことができるらしい。その日を”七夕たなばた”と呼んでいる。

 織姫と彦星は、人の姿ではなく、お星様のことを指して呼んでいて、普段は、間に架かる天の川が、二人が出会うことを拒んでいる。しかし、七夕になると、織姫と彦星は、出会いに行けるという。ぼくは、がっこうの国語の授業で、そう教わった。


 がっこうでは、七夕が近くなると、細長い紙が配られる。それは、短冊と呼ばれる細長い紙でできていて、えんぴつで書ける。


 そこに、”ねがいごと”を書けば、ねがいをかなえてくれるらしい。がっこうでは、そう聞いた。みんなは、スラスラ書いて、がっこうに提出していた。




 あれ?ぼくの”ねがいごと”って何だっけ?




 かなえてほしいねがいごとが、わからない。ここに居ても、見つからないな。そもそも、”ねがいごと”って何だっけ?おねがいって、どうやってするんだっけ?かなえられるんだっけ?



 そういえば、ぼくが住んでいたまちでは、8月に大きな七夕まつりがやってた。7月じゃなくて8月なんだと思った。しかし、そこには、いろいろな色の、大きなひらひらしたかざりがぶら下がっていて、とてもきれいだった。ぼくも、そこに行ったら、ねがいごとがわかるのかな?


 でも、いっぱい考えても、”ねがいごと”を考えるまえに、”ぼく”のことが、よくわからなくなってきた。ぼくは今、どこにいるのだろう?ずっと、ずっと、長い間、ここにいるみたいだ。ここは、おうちなのかな?



 やっぱり、いくら考えても、かなえてほしい”ねがいごと”が、見つからない。分からない。ねがいごとって、どういうおねがいなのかな?そもそも、ねがいごとがかなったら、ぼくは、どうなるのかな?そうしたら、”ぼく”が、なんなのか、分かるようになるのかな?




 そんなことを考えていたら、目の前に、白くてきれいなひらひらが通り過ぎた。




 待って…!




 追いかけるとそれは、とてもきれいに縫われた、布きれだった。

 ぼくの目の前に現れた、このきれいな布きれに”ねがいごと”を書けばいいの?でも、がっこうでは、”細長い紙”に書くと言ってた。


 じゃあ、これは、何?もう少し、引っ張って様子を見てみようか。





 すると、そこには、白い服に赤いズボンを履いた、神社にいる……そう、巫女が現れた。どうやら、ぼくの前に通り過ぎた、白くてきれいなひらひらは、この巫女の服だったらしい。


 あれ?七夕の短冊じゃなかったの?あなたは、誰?





 「私は、あなたを導くものです。」




 みちびく? ん…? どこへ?




 「夜になると、分かるでしょう。」




 夜…? なんで?




 「ふふ。大丈夫。直に夜になりますよ。」






 そうすると、突然、まわりが薄暗くなってきた。遠くからは、どーんと言う、大きな花火の音もする。ぼくは、昔から、花火は明るくて、不規則に輝くのでとても好きだった。



 あれ?昔から花火が好きだった?ぼくは、昔のことを知っているのかな。






 さっきの巫女が、ぼくの目の前に、再び現れる。





 「あなたを、導くものです。」





 みちびく? また? どこへ行くんだろう?





 「あなたは…………。



 あなたは、もう、すでにこの世には存在していないのです。」





 え?






 「空を見上げてみなさい。空には、満天の星が見えることでしょう。」







 「あなたは、あの場所に帰るのです。」







 ぼくは、空に、星に、帰るの?





 「あなたは、これから、大きな七夕の神になります。」




 たなばたのかみ?





 「あなたは、人々の願い事を叶える存在になります。」






 「あなたの願い事は、生前、こうありました。」











 ―――――ぼくは、みんなのねがいをかなえたい。





 「これを今、その機会を与えます。そして、人々の願い事を叶えるのです。」





 そうか、ぼくが、ずっと考えても考えても、かなえてほしいねがいごとが見つからなかった、分からなかったのは、そう言う意味だったのか。






 ―――――見つからない、分からないのは、今までの”ぼく”では、叶えられる願い事が存在しなかったからだ。





 この世に存在しないから、叶えられっこない。叶わせられるような願い事が、無くなったからだ。それは、”ぼく”が、”ここ”にいる限り、ずっと続く。

 細長い紙やえんぴつがあっても、書くことができない。


 七夕は、生きている人のみが叶えられるんだ。そして、七夕の願い事は、生きているみんなが、等しく、受け入れられるものだったんだ。




 ”ぼく”は、長い間、何だかずっとふわふわとしていた。


 それが、どれくらいの時間が経ったのか分からないので、どれくらい過去のものだったのかも分からない。


 確か、”ぼく”が自転車で街を走っていたら、車とぶつかったんだ。それから、なぜかこの白い場所に来て、何だかずっとふわふわしていたんだ。



 ずっとふわふわした所に居るくらいなら、みんなの願い事を聞いて、叶えたい!




 赤いズボンのお姉さん!”ぼく”を星に、帰らせてください!


 そして、みんなの願い事を叶えたいです。どうか、お願いします!





 「ここからは、戻れなくなるが、それでよいか?」





 はい。





 「分かりました。そなたの、最期の願い、叶えましょう。」









 7月7日は、織姫と彦星が出会える日と伝わる。その日に向けて、短冊へ願い事を書くことで叶えられると言われる。


 地方都市のこの街では、7月ではなく、古い暦にあわせて、8月に七夕祭りが開催される。

 驚くことに、何と、この七夕祭り会場で短冊に書いた願い事は、ほぼ100%的中し願い事が叶う、言わばパワースポットのようなものとして噂が広がっていた。これにあやかろうとする人で年々七夕祭りへ訪れる観光客が増えており、これには、開催の自治体も驚くばかりで、記念に、世にも珍しい七夕神社たなばたじんじゃという神社を建立させた。

 七夕祭り会場に近い、この神社では、祭り期間に合わせて、若い巫女が踊りを披露する。


 ところで、この七夕神社たなばたじんじゃでは、どこかの神ではなく、一人の少年を祀っている。


 そこで祀る少年は、友達の家に向かう最中に、偶然交通事故に遭い、帰らぬ人となった。そして、遺族が、少年の遺品整理をしていたところ、机の引き出しの奥からとある一つの細長い短冊が発見された。内容は、こうである。



 ―――――ぼくは、みんなのねがいをかなえたい。



 これは、少年が通う小学校で配られた短冊用紙だった。遺族から自治体へ相談したところ、偶然、七夕祭りでの噂を聞きつけていたこともあり、もしかしたら、これは、地域の活性化に貢献できないかと考えた。

 そして、街が行う七夕祭りと関連付けて、神格化し、神社建立させ、活性化につなげてはどうかとの提案をしたのだ。


 なお、神社建立当時に行われた祭事で巫女をつとめたのは、少年の母親だとのこと。本来、嬉しい祭事であるはずが、複雑な心情であったろう、涙しながら舞ったという。


 以後、その母親の希望で、”巫女は、若い女の子で”という申し出があった。少年を思う、せめてもの償いと、祭りには若い子が出たほうが、こんなオバサンよりも良いでしょ?と言うことだった。そうおっしゃるのでしたら、と自治体も従った。


 そうしてできあがったのが、世にも珍しい、この自治体が特別に建てた「七夕神社たなばたじんじゃ」であった。



 それ以来、8月以外の月でも、宮参りする人は多い。元々が、願い事が叶うとして建立した神社は、七夕の所以である、縁結びや学業成就等の神としても機能していた。


 そして、この自治体の目論見通りか、はたまた神社の影響もあってか、8月に行われる七夕祭りは、全国有数の七夕祭りの一つとして、有名なものとなった。



 街のメインストリートで七夕飾りがひらひらと風に揺られるころ、若い巫女も、七夕神社で美しく舞っていた。




終わり。(以下余白、補足)




*本内容は、フィクションであり、実際の登場人物、団体、建造物などとは関係ありません。


 ここまで読んでくださり、お疲れさまでした。稚拙な文章でしたが、いかがでしたでしょうか。感想や、この認識はどうなの?等の疑問がありましたら、気軽にお問い合わせください。お待ちしております。

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