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たぬきのお稲荷様

作者: コロン

アンマンマンサマ主催の「たぬき祭り」参加作品になります。





 僕はたぬきである。

 知ってる?僕って凄いんだよ。

 たぬきだからね。「他」を「抜く」パワーがある


 …らしい。




 僕は、とある神社のお稲荷さんの小さな祠のその奥に、ひっそり隠れて住んでいた。


 だってここなら雨風は凌げるし、たまに美味しいものもお供えしてもらえるし。

 もちろんちゃんと狩りにも出かけてた。

 ネズミとか、カエル、栗とか落ちた柿とか食べていた。


 元気に野山を走り回っていたある日、足を怪我してしまった。

 大きなイバラの棘。どんなに舐めても刺さったまま。

 痛くて痛くて。

 僕は治るまで祠で丸くなって我慢していた。


 もうそろそろ治るくらいは大人しくしていたはずなのに、体は熱いし頭はぼんやりしている。

 お腹はぺこぺこだけど動けない。何日か前から降り続く雨のせいでお供えも途絶えている。


 少し寝よう。

 起きていれば「痛い」と「お腹空いた」と交互に考えるしかできないし。

 寝て起きたら痛くなくなっているはず。

 そうだ。お供えをくれる人間たちは「神様」に「お願い」していたな。

 僕も「神様」に「お願い」してみよう。



「神様。お願いします。僕の痛みと苦しいのをなくしてください」



 お願いしたらなんとなく痛みがなくなった気がする。

 苦しいのも楽になったみたい。

 良かった。これでゆっくり眠れる…神様のおかげなのかな…



 それからどれくらい寝たかわからない。

 祠に差し込む眩しい光で目が覚めた。


「あれ?本当に痛くないし苦しくない!やったー!!」

 嬉しくてくるくると走り回ってみる。


「そうか?もう痛くないか?」声が聞こえた。


「え?神様?」

 あ、えっと…お願いが叶った時は「ありがとうございました」だっけ?

「ありがとうございました!」

「うんうん」


 優しい声でそう言うだけで神様は消えてしまった。



 雨が止んだことで、人間たちがまた祠にお供えを置いていく。

「僕はお腹は空いていないんだけど…」

 でも、食べなくてもお供えをもらうと元気になった。

 そしてみんなが「お願い」を置いていく。


 ふわふわと浮かぶ光る文字。


 ほうさく

 へいおんぶじ

 おかね

 けんこう


 最初は何の事かわからなかった。

 ただそれを眺めているだけだった。


 でもある日「孫の足の怪我が治りますように。せめて痛みをなくしてください」と願うお爺さんが現れた。


「ああっ!そうだ!」僕は思い出した。

 怪我の痛み、苦しみ。そしてそれから救われたいと願う気持ちを。

 いつもお供えをくれる人間。なんとかしてあげたかった。


「その人について行き、孫を救ってあげなさい」

 声に振り向くと神様がいて、優しく笑って僕に言った。


 僕は恐る恐る祠から出て、神様に言われた通りにそのお爺さんについて行く。

 お爺さんの家には、粗末な布団に横たわる子供しかいなかった。


 痛みに顔を歪める子ども。その足には黒いモヤが見えた。たぶんこれが「痛み」なんだ。

「これを取ってあげればいいのかな…」

 どうやって取れはいいかわからないけど、とにかく僕は一生懸命にそのモヤを取り払う。

 だって本当にしつこいモヤで、消えたと思っても次から次に出てきて全然取れないんだ。

 それでも僕は一生懸命モヤモヤを払った。

 足を撫でて、頑張ってと声を掛けて。僕も頑張った。


 僕がヘトヘトになった頃、最後まで残っていたモヤがなくなった。

 しばらく見ていたが、それからモヤは現れることがなかった。


 これでよし…かな?

 子どももすやすやと眠っていた。もう大丈夫そう。


 ヘトヘトになりながら祠に帰る。

 祠の前で、神様が待っていてくれるのが見えた。

 凄く嬉しかったけど、なんでもない事のように神様の前を通り過ぎて祠の奥で丸まった。


 神様の笑顔が僕を褒めてくれているのがわかったから。

 恥ずかしくて嬉しくてどうしていいかわからなかった。


 しばらくして、あのお爺さんと孫が祠にやってきた。

 二人で何度も御礼を言っていた。

 一生懸命頑張って良かったと思った。



 と同時に悲しくなってしまった。

 だって、目の前にはたくさんの「おいなりさん」が置いてあったから。


「僕、きつねじゃなくてたぬきなのに」


 お稲荷様と思ってお願いしているのに、たぬきだったらガッカリさせてしまうかも。


 しょんぼりしていると神様が笑って言う。

「一生懸命に誠実に向き合っていれば、たぬきもきつねも関係ないだろう。たぬきと知られたら「ずっとたぬきでした」と笑って言えばいいだけだ」

「そうでしょうか?」

「そうだ。あとはお主の頑張りにかかっている」


 そうか…

 僕が頑張ってお願いを叶えてあげれば…いつかたぬきだとわかっても「たぬきなのに凄い」と認めてもらえるのか。「やっぱりたぬきか」とガッカリさせない様に頑張ろう。



 神様もニコニコと「頑張りなさい」そう言ってくれた。



 あれからずいぶん長い時が経つけれど、僕はたぬきのままお稲荷様の祠に住んでいる。


 そこでお稲荷様として人々の願いを叶える為に頑張っている。












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― 新着の感想 ―
神様の優しいアドバイスが印象的でした。 いつか真実が明るみになる時が来るかもしれませんが、主人公は立派なお稲荷様であり続けるのでしょうね。
ほっこり(*´ω`*) たぬ稲荷様、これからも頑張って下さい!
お稲荷様の小さな祠の中にいる、心優しいたぬき。人々も感謝していると思いますし、いつかたぬきのことが分かっても、もしそうでなくても、行ったことの素晴らしさと、人々のそれに対する感謝は変わらない、そう思い…
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