②妹、巻き込まれる
「どうか………どうか、扉が開きませんように」
祈りつつカエデが歩くと、勢いよく真横の扉が開けられた。
「寝坊したあぁぁぁぁ!」「きゃあぁぁぁぁ!」
扉から出てきた何かと激しくぶつかった。爪先立ちしていたカエデは勢いに勝てる訳もなく、廊下の壁に叩き付けられる。
「うわっ! 済まねぇ、急いでいたもんでよ!」
扉から出てきた者が転んだカエデに手を差し伸べる。声からして女性だった。
「いえ、こちらこそ。ありがとうございます」
思わずカエデも差し伸べられた手を握る。握った手は毛深く、しかし柔らかかった。
まるで猫の手のように。
「「………あ」」
互いに目が合った。
カエデの目の前には白と黒のメイド服を着たネコの亜人が立っていた。黄色い体毛に茶色の斑点が散らばっており、頭の上には左右に向いている猫の耳とややズレた白いカチューシャが見える。
「あ、あなたもしかして………」
「お、お前! あ、さては逃げる気かっ!?」
猫メイドは大声を上げるなり、握っていたカエデの手を離すと、すぐに襟首を掴んで持ち上げた。年齢の割に小さいとはいえ、一人の人間を片手で持ち上げる猫メイドの腕力は人並み外れていた。
「お前! 鍵をどうやって開けた!」
「鍵は最初から開いてたよ!」
カエデも負けじと声を張り上げると、意外にも猫メイドの動きが止まる。
「へ? 開いていた?」
「そ、そうよ!」
そろそろ息が苦しくなる。カエデが苦悶の表情を見せると、猫メイドは襟首を掴んだままカエデを床に降ろし、自分の記憶を辿るように、もう片方の手で顎を撫で始めた。
そして思い出す。
「あ、鍵を閉めるのを忘れていたかも………?」
しまったと猫メイドが後頭部を掻いて誤魔化している。
「ほほう、忘れていたのか」
「そうそう。いやぁ、シドリー姉さんに見つかる前で良かった良かった」
いつの間にか猫メイドの背後に、もう1匹の猫メイドが立っていた。真っ白な体毛の猫メイドは、鋭い目つきで笑って誤魔化す猫メイドを睨んでいる。
「ねぇ、ちょっと………」
振り返っていたカエデは、思わず襟首を掴んでいる方の猫メイドの腕を突く。
「何だ何だ! 人間風情が触るんじゃねぇよ」
「なら、私が触ってやろう」
今度は猫メイドが襟首を掴まれて持ち上げられた。




