④見るべき先の距離
あの戦いの前。フォースィがその武器を見て、恐らくと前置きしながら説明していたが、引き金を引くと赤い鉱石同士が絡繰りによってぶつかり合い、筒の奥で火の魔法に近い小爆発が発生、その勢いで鉄球を射出しているとの事だった。
そして、赤い鉱石の正体は、高濃度に凝縮されたクレーテル石である事が判明している。
魔法を使う為に必要な魔力の源となるクレーテルは、空気中を含め自然界に多く存在している。クレーテル石は、文字通りそれらを吸収する性質があり、着火剤や魔導ランプ等、日常生活で幅広く使われている。だが、鉱石の色や透明度が宝石のように変わる程の高濃度のクレーテル石は希少で、一般にはまず出回らない。
それらを大量に運用していた魔王軍は、高濃度のクレーテル石が算出する鉱床を保有しているか、人工的に製造できる技術があるという事になる。
「フォースィさんの話だと、人間と魔王軍が袂を分けて二百年が経っているそうですね⋯⋯⋯その間、彼らは独自の文明や技術を会得したという事でしょうか………しかも我々に存在を知られる事なく」
自分でも途方もないことを言っていると感じつつもエコーが厳しい顔で呟く。
だが、タイサもその考えに頷いた。
「侮るよりも、そう考えておく方が良いだろう。情けない話だが、蛮族を二百年ものの間、下等な存在と思い込んでいた我々の方が間違っていた事になる」
思い込みほど修正に手間がかかるものはない。しかもそれが戦う者だけでなく、一般の人間から政治を司る人間にまで染みついているとなると、その修正にかかる時間は数年単位では収まらない。
「我々はこの二百年、一体何をしてきたのか………!」
タイサの拳が強く握られる。
人間が魔王軍との間に何が起きたのか。歴史という不変で一直線で存在するはずの道が、途中で向かい合う滝のように抜け落ちていた。
本当に自分達の中でやれる事をやっていくしかない。タイサはエコーに行った言葉を自分に言い聞かせるよう、心の中でもう一度言葉にし直した。
「隊長。まずはカエデちゃんを助ける事に専念しましょうや。俺には世の中の事は難しくて、ついていけないっすよ。俺だったら、魔王軍の中に可愛い子がいれば、それだけで仲良くしたいですね」
ボーマの軽口が今は笑いの種になる。タイサとエコーは珍しく彼の冗談に笑った。
「そうだな。お前には魔王軍の司令官を紹介しよう。メイド服で可愛い猫の女性だったぞ」
「あ、本当ですか!? やったぁ、約束ですからね隊長!」
ボーマの気持ちが昂る中、エコーは細い目でタイサを睨んでいた。
「隊長、ああいうのが良いんですか?」
「え!? あ、そこに反応するの? あ、しまった、久々で忘れ………待て、落ち着けエコー。ここは馬車の中で、立ち上がると危ないぞ………ひっ」
馬車が横に揺れた。




