②人の業
「あら、もう行ってしまったの?」
「ついさっきな。見送り位、素直にしてやればいいのに」
デルの後ろからフォースィが合流してくる。少女の服を纏った神官はわざとらしく微笑み、恥じらいがある方がまた会いたくなると、風でなびく黒髪を押さえながら遠く東の門を見つめた。
「それで、こっちはこっちでどうするのかしら?」
フォースィは振り返り、残った場所のある方へと歩き始める。
「どうするって………単純に王都に戻るだけさ」
デルは彼女の後ろにつくように、踵を返して歩き出す。
「そういえば、銀龍騎士団の鎧姿が一人も見当たらないけれど? 半分があの戦いよりも前に王都に向かっているから、残りは一体どこに行ったのかしらね」
「………よく見てるな」
「伊達に長く生きてはいないわ」
姿に合わない言いようだが、冗談に聞こえてこない彼女の振る舞いに、デルは降参だと手の平を上に向けた。
「残りの部下達には例の集落に向かわせた。ブレイダスを放棄すれば、しばらく戻ってこれない。俺も王都に行く事になるから、かなりの日数になる。あいつらにはこれまでの情報と物資を運んでもらい、時機を待てと伝えに行かせた」
この戦いはすぐには終わらない。デルはフォースィに長期的な視野をもって事に当たるべきだと強調した。
「さて、人間は一丸になって戦えるかしら」
返って来る答えが分かり切った問い。フォースィが他人事のように目を細めながら笑う。
「無理だな。少なくとも騎士総長の座を巡って揉める事は必至だ」
デルは吐き捨てるように、彼女の求める模範解答を言葉にした。
タイサの言っていた貴族派の動き、それに宰相の真意、全てが利権と己の欲の為、互いの足を引っ張り合う事になる。事情を知る者ならば、誰にでも想像できる事だった。
「くだらなすぎる」
その為に、デルはタイサと共に王国騎士団に入った訳ではない。タイサは下から、デルは上から人々を救おうと考え、ここまできた。それは互いに強情な所でもあったが、誇りでもあった。間違っても派閥争いや利権を巡って動いてきた訳ではない。
中央広場に戻った二人は、用意された馬にまたがる。イリーナはまだ体調が優れない為、他の騎士と同じ馬車の中で休ませている。
「いっその事、あなたが騎士総長になればいいんじゃない?」
馬を進めた途端、フォースィが冗談交じりで話しかけてきた。
「俺がか?」
冗談はやめてくれ、と魔王軍と戦う前のデルなら言っていただろう。だが、この時の彼の口は重たかった。
「あら、冗談にならなかったかしら? ごめんなさいね」
代わりにフォースィが独り言のように話し始める。
「でも、きっと多くの血が流れる事になるわ。その時あなたはきっと逃げられない。後悔しない決断を迫られる事になるわよ」
「………分かっている。それまでには腹を括るさ」
全てを見透かされているような彼女の言葉に、デルは自嘲気味に笑って下を向く。
「騎士総長か………」
彼は青い空をしばらくの間見続けた。




