①出発
「それじゃぁ、しっかりやれよ」
デルはタイサと強く手を握り合った。
「ああ、お前達こそ………よろしく頼む」
王国の事、騎士団の事、そして王女殿下の事。様々な意味を込め、タイサはデルに全てを託す。
互いに全ての支度が整った。
デル達は生き残った騎士を連れて王都へと帰還し、王国騎士団に現状を報告をすると共に、王国騎士団の立て直しと今後の魔王軍との戦いに備える。フォースィとイリーナもデル達に随伴し、二百年前の歴史や魔王についての再調査、さらには自分の母親の手掛かりについて宰相と会いに行く。
対してタイサ達は、魔王軍に掴まったであろう妹のカエデを取り戻すべく東へ、ゲンテの街の方角へと馬車を進める事になった。デルはタイサにも、例の集落に銀龍騎士団の生き残りがいる事を伝え、万が一の場合にはそこに向かうようも伝える。
「分かった。いざという時には、そこに向かうさ」
タイサは握手をしながらデルの耳に顔を近付けた。
「………貴族派には気を付けろ。それと宰相にも油断するな」
デルも小声で返す。
「分かっている。既に俺の部下を数日前に出発させ、王都の冒険者ギルドに連絡を入れるよう指示してある。王国騎士団の耳に正確な情報が入るよりかは幾分か早く動けるはずだ」
二人はすぐに体を離し、怪しまれない内に互いの馬車に向かった。
「済まない、遅くなった」
荷台に乗り込んだタイサは、待っていた二人に声をかける。
「大丈夫ですよ隊長。とりあえず目的地はゲンテの街って事でいいんですかい?」
手綱を握っているボーマが振り向きながら声を上げた。
「ああ、それで頼む」
「あいあいさ!」
手綱が馬を叩く音が聞こえ、馬車がゆっくりと進みだす。




