⑨謎の少女
「あいたーっ!」
いきなりの出来事に、タイサは女の子のように足を揃えて地面へと倒れ込んだ。
「隊長!?」「兄貴!?」
馬車からエコーとカエデが飛び出し、タイサに駆け寄った。
タイサは叩かれた頬を撫でながら、ゆっくりと立ち上がる。
「何て事をっ! 普通だったら死んでるぞ!? おぃ!」
「………おお、本物だ」
通り魔同然の行動に怒るタイサを前に、金槌を手にした女性は驚きを隠せないまま目を輝かせた。
「爺様の言った通り、頑丈な人だっていうのは本当だったのかぁ」
女性は一人で勝手に頷き、新しい発見に腕を組んで勝手に何かを考え始めた。
「………おい」
無視されたタイサは流石に我慢の限界を迎え、女性の頭を髪ごと握り掴む。
「タイサ、久しぶりね」
「………んん?」
だが女性は怖がる事なく、頭を握られたまま知人のように手を小さく上げ、軽い挨拶を投げた。
タイサには思い当たる節がない。彼は、彼女の頭を掴んだまま、一旦動きを止める。
「何、覚えてないの?」
もう一発必要かしらと、金槌を目の前で見せながら悪い笑みをつくる。
「もしかして?」
「そう! もしかしてぇ?」
タイサの中でようやく思いつく一つ人の名前。
「トリーゼか?」
「正解!」
タイサの頭の中の少女と、目の前の女性は似ても似つかない姿であった。彼にとって髪の色やそばかすは見覚えがあったが、ボーマ程ではないにしても体格は遥かに横に長かった気がする。
「………嘘だな」
タイサから心の声がだだ漏れた。
その瞬間、タイサは左右の頬を金槌で殴られた。