⑭そして彼は一歩近付く
「どう、使ってみる? 流石の私もどんな効果があるかは分からないから、後で苦情を言っても返品は受け付けないわよ」
あとはあなた次第と、フォースィは無責任に選択権を投げつける。
「隊長………自分は反対です。いくら隊長が人離れした耐性があるとはいえ、これ以上体に負担をかけない方が良いと思います」
エコーの意見はもっともだった。防具を身に纏わなくてもタイサの頑強さは、その一点だけで防具にも武器にもなる。あえて強い防具を求める必要はないという彼女の意見は正しい。
「フォースィ、お前は一体何を考えている?」
タイサが鎧を背にして、部屋の外で立つ小さな神官に真正面で尋ねる。
「………特に深い理由はないわ。あなたにしか扱えない装備があって、呪われていたとしてもその力は妹のカエデを助けるために必ず力になる。そう思っただけよ………私にとっても長い付き合いのあるあの子は大切な妹だもの。それが理由だと変かしら」
フォースィは迷う事無く自然に言葉を並べた。
「いや………変ではないが………」
妹を想う彼女の気持ちに偽りはない。長い付き合いから確信に近い思いはあったが、タイサはそれでも何かが引っ掛かっていた。それが言語化できないだけで、胸の中で何かがざわついている。
だがその答えは、終ぞ口からは出なかった。
「………分かった。有難く使わせてもらおう」
「隊長!」
エコーが前のめりにタイサの名を呼ぶが、即座にフォースィに腕を引かれ、それ以上前に進む事を許されなかった。
「心配するなエコー。俺はまだ大丈夫だ」
そう言ってタイサは振り返り、呪われた鎧に手をかけた。
瞬間。
鎧の澄んだ銀色が、タイサの手を起点にくすみだす。そしてどこにでもあるような鉄の鎧と同じ褪せた色へと変色した。
「おい、フォースィ。急に顔色、いや鎧色が悪くなったぞ、何でも良いから説明してくれ」
「どうやら持ち主に合わせて色が変わるようね」
「適当にも程があるだろうって………痛っ! だからって石を投げるな!」
タイサは武器屋で吟味したばかりの鉄鎧を脱いで木の机に置くと、怪しい鎧に袖を通す。
そして何事もなく、フォースィ達と合流する。
「体は何ともありませんか?」
「ああ、特に変わった様子はない。あの剣のように無理矢理押さえつけるのかとも思ったが、それもないようだ」
「はい。私からも、唯の手入れの行き届いた古い鉄鎧程度にしか見えません」
何もない方がかえって気味が悪い。タイサは冗談交じりで肩を釣り上げた。先程まで他者を寄せ付けない程に湧き出していた負の波動も今では落ち着き、何も知らない人間から見れば、彼女の言う通り唯の鉄鎧である。
タイサはまだどんな力があるか分からないと二人に話し、鎧に触れないように求めた。
鎧の安全性を確認できたのは、正門前で待っていたボーマが、誰もいない学校内で一体何をしていたのかと下品な話をしながらタイサの鎧を何度も叩いた時だった。




