⑫呼び出し
「タイサ、少し時間はあるかしら?」
大通りの武具店の前に止めた馬車に荷物を積み込んでいた矢先、一緒についてきながら何も手伝わないフォースィが、木箱を荷台に積み終えたタイサに声をかけた。
「まぁ、後は出発するだけだから、あると言えばあるが………どうしたいきなり」
「少し付き合って欲しい場所があるのだけれど」
その言葉に両手で荷物を運んでいたエコーが反応し、二人を細めで睨み付ける。
「あら、あなたも気になる?」
「い、いいえ。私は別に―――」「俺は気になりますね………がはっ」
エコーの後ろに現れ、下品な笑みで三人を一瞥するボーマが、エコーの持つ木箱の角に顎を打ち上げられて悶絶する。
タイサは二人のやりとりに目を細め返したが、フォースィは口元を僅かに緩ませるとエコーにもう一度声をかけた。
「あなたが本当に彼の事を心配しているのならば、知っていた方が良い事よ………それでも興味がないかしら?」
「おい、フォースィ」
話の中身が分からず余計に不安になるタイサだったが、エコーは一瞬考えてから小さく頷く。
「分かりました。連れて行ってください」
「いいわよ。じゃぁ、馬車を出しましょう」
そう言って、フォースィは杖を街の北西に向けた。
不機嫌なボーマが操る馬車に揺られる事、数分。フォースィはタイサ達を広大な敷地で囲まれた建物の前へと案内した。
馬車から下りるタイサ達。そして周囲を確認すると、この場所がこの街でも有名な所だと気付く。
「王立の訓練学校か」
「ええ、この中に見せたいものがあるの」
フォースィが先頭を歩きだす。タイサはボーマに留守を頼み、エコーと共に後に続いた。
入口からまっすぐ歩いて最初の建物に入ると、フォースィは上階と吹き抜けになっているロビーの階段の地下、ロープで立ち入りを禁じられている先へと向かう。
「ある意味、この街に人がいなくなって助かったわ」
この学校は歴代の勇者を輩出してきた学校である事、そして歴代の勇者に関わる装備等が秘蔵されている可能性をタイサ達に伝える。決して悪意のある発言ではないが、彼女が言うと大勢の人の死も、遠い場所で起きた話のように、無機質な情報へと変わる。
「そんな大事な物、既に運ばれているに決まっているだろう」
「ええ。勇者達が使っていた道具や装備の殆どは、住民を護衛する名目で、一緒に避難した勇者組の生徒と共に王都へと運ばれたわ………だけど、その話には続きがあるの」
フォースィは今まで調べてきた資料から、この街に『勇者の鎧』が保管されていた事、そしてその鎧が二つあるとの事だった。
彼女達は階段を降り、馬車から持って来た魔導ランプを灯しながら数十メートルの長い一本道を進んで行く。外の光を全て失い、何度か振り返れば、前後の感覚を失いそうになるカビ臭い石造りの道を淡々と進むと、ついに行き止まりを示す扉が見えた。
鍵が既に開いている扉を開けると、そこは様々な武具があったであろう名残の状態の部屋が残されていた。
「ここにあった武具は全て運ばれているけれど、一つだけ運べなかった物が残っているのよ。え、何でい知っているかって? 決戦前に強制的に脱出させたこの学校の元校長から教えてもらったからよ。だから情報源としては確約………それをあなたに使って欲しいのよ」
「………何故俺なんだ?」
「何故だと思う?」
疑問に対して疑問を返されるタイサ。フォースィは意地悪く小さな笑みを見せると、部屋の奥にある扉に手をかけた。その扉はまるで昨日今日設置されたかのように真新しく、取っ手にも扉にも人が触れた後も埃もカビの蓄積がまるで見られない。
確かに存在しているにもかかわらず、周囲の風景の中で唯一異質を主張していた。
「それじゃぁ、開けるわね」
室内の気温が一気に下がる。




