⑨兄の決断
「タイサ、そっちはどうだった?」
予想はしていてが、タイサは妹の消息について尋ねられて動揺する。それでも彼は表情には出さず、両手を組んで力を込めてから話し始めた。
「………可能な限り探してきたが、見つかったのは飛竜の死骸だけだった。それ以外は何も見つからなかったよ」
妹の遺体もなかった。それはそれで安心できたが、タイサは下を向いたまま手で顔を覆い、周囲にエコーの報告通り、魔王軍に捕まった可能性が高いと予想する。
「そうか………」
デルは息を吐くように頷き、タイサから視線をずらすが、すぐに戻した。
「タイサには悪いが、俺達は明日王都に向けて脱出する。魔王軍が言っていた通りに進軍が止まるのならば、その間にこちらは態勢を整え、騎士団を再編成し、次の戦いに備えなければならない」
「その通りだ。俺でもそうする………気にするな」
タイサは淡々と答える。
魔王軍の進軍は止まったが、王国の領土は深く侵攻されたままである。ここに残っても手持ちの戦力で街を防衛できない以上、一旦後退する彼の考えは正しい。そして王都へと状況を説明し、一日でも早く態勢を立て直す必要がある。間に合えばブレイダスの街を防衛拠点として、そうでないならば、シモノフの大関所跡を拠点にしなくてはならなくなる。
「何をするにしても、まずは王国騎士団としての判断と陛下の理解と裁可を得なければならない。既に王都には伝令が到着している頃だろうから、そう時間はかからないと思うが………」
「どこまで危機感をもって信じてもらえるか、ね」
「そういう事だ」
フォースィの言葉にデルが溜息をつく。これだけの被害を受けて、さすがに妄想だと言われる事はないだろうが、現場にいた者達と王都で事情を聞いただけの人間と差をどこまで詰められるかが問題だと、デルが付け加えた。
「だから俺自身も王都に向かわなければならない。フォースィはどうするつもりだ?」
「私も王都に同行するわ。上手くいけばバージル卿と話す機会もあるでしょうし………そうそう、イリーナも連れていくわね」
シエンは言うまでもなく騎士達を率いて王都に戻る事になる。
そして全員の視線がタイサに向く。
「それで………タイサはどうするんだ?」
デルの言葉に、タイサは手を組んだまま目を瞑り、下唇を噛む。
「俺は妹の………カエデの行方を捜しに行く」
周囲はその答えをほぼほぼ予測していたが、デルだけが厳しい目でタイサに訴えかける。
「いいのか? 場合によっては魔王軍を刺激する事になる」
「………なるべく穏便に済ませるさ」
組んだ両手を開いて誤魔化すようにタイサは笑って見せる。




