⑧ブレイダスからの脱出
「済まない、遅くなった」
真っ先にタイサは頭を下げる。
「気にするな」
最初に言葉を返したのは隅の木箱に座っていた戦友だった。焼け焦げた服や装備は新調され、包帯で巻かれた左腕の上からは新しい手甲が巻かれていた。
彼の傍では板で組まれたベッドがあり、そこでは鎧を脱いだイリーナが寝息をたてていた。デルがフォースィから聞いた話では力の使い過ぎらしい。
「まったく大の大人が情けない。少しは落ち着いたのかしら?」
少女の声と同時に、タイサの後頭部が杖の先で叩かれる。赤いスカートと上品な白い服を纏った十二歳、十三歳の女の子だったが、タイサは黒髪と彼女と同じ長さの魔導杖でその正体がフォースィだと気付く。
「あぁ、迷惑をかけた………その服、似合ってるぞ」
少しでも機嫌を取ろうと、タイサは目から下で笑って見せた。
「煩いわね。好きで着ている訳じゃないの。エコー、後でそこの駄目男に女性の褒め方を教えておきなさい? そうしないと、さっき私に色々な服を薦めてきた変態と同じになるわよ」
不機嫌になった彼女は、エコーに全てを任せると奥へと進んでいった。
「それは困りますね。分かりました、後でしっかりと教えておきます」
「ぐむむむむ」
エコーは唸るタイサの横で口元に手を置いて笑い出す。。
数分後。
街の外周へ偵察に出ていたボーマ、騎士達への指示を出し終えたシエンがそれぞれ本部に集合し、状況の報告と今後についての話し合いが行われた。
デルは全員に声をかけ、地図の乗った机を中心に円をつくるように集めさせる。
「それでは立場上、俺が話を進めさてもらう………まずはシエン、報告を頼む」
デルは集まっている仲間の中で、唯一立っている女性騎士に声をかけた。
「はい。現在生存している騎士は八十五名。うち戦闘が行えない重傷者は十五名です。既に脱出の為に必要な数の馬車を確保し、物資と重傷者の運搬を指示しています」
「………脱出か、まぁそれしかないだろうな」
頬杖をついていたタイサは、既に進められていた事に反論しなかった。フォースィ達も事前に聞かされているらしく、意見らしい意見も出ない。
「まぁ、ここにいても何もする事がないからな。ボーマ、魔王軍の動きはどうだった?」
デルが話を進める。
「ういっす。奴らは本当に撤退したようで、街の外、さらに外壁の上からも見て回りましたが、特にそれらしい姿は見られませんでしたね」
物資も揃い、敵もいない。脱出するには十分な条件が揃った事になる。
「なら明日の出発に問題はなさそうだな………あるとすれば」
デルがタイサに顔を向けた。




