⑥錯綜する状況
「俺の方でも気になった事がある」
左腕の感覚を気にしながら手を握り開くデルが会話に混ざる。
タイサが司令官のシドリーと戦っていた間、デルはその妹であるオセと戦っていた。結果は互いに大怪我になり引き分け。だが、その中での会話で気になる話題があったと話す。
「タイサはアリアスの街で77柱を名乗る青いオークと戦った、と言っていたな」
「ああ」
西部方面での戦い。タイサはデルが何故確認をしたのか理解できないまま頷く。
「あの場には77柱と呼ばれる魔物は三匹いたらしい」
「そんな馬鹿な。俺は一体しか見た事がないぞ」
デルの真剣な表情にタイサはあり得ないと怪訝な顔になった。
「あの猫メイド………オセは、わざわざ俺に色違いのオークとバードマン、それに長槍をもった魔物がいなかったかと馬鹿みたいに聞いて来たぞ」
知らんと答えた時の表情は、本当に驚いていた顔だったとデルが主張する。
「恐らくバードマンの方は………まぁ、77柱自らというのも違和感があるが、伝令役だったと想像できる。俺が奴らと初めて戦った時は、アリアスの街の事を既に知っていたからな」
「つまりアリアスの街には、いや西部方面には、伝令に向かったバードマンを除いても、幹部級の魔物がまだ一体残っている? だがあの戦い以降、何も起きなかったぞ? 放棄したアリアスの街にも魔王軍が潜んでいた南の森にも、王国騎士団の調査は既に入っているしな」
タイサが腕を組む。
「残っているかもしれないが、他の蛮族と共に撤退した可能性もある」
それにしても、とデルが話を戻す。
「魔王軍が撤退する理由になるだけの呪われた剣か………本当に奴等の目的はこの土地の占領なのか?」
誰も答えられなかった。
そこにフォースィが腕を組みながら、落ちそうになった毛布を掴む。
「議論も結構だけど、判断するには情報が不足しているわよ。推測から推測を重ねても真実は一層ぼやけるだけ。それに、今の私達に何かを解決するだけの力もないわ」
それもそうだ、とタイサが肩をすくめ、雰囲気を柔らかくする。
「フォースィは、昔の文献についても随分と調べているんだろう? 何か思い当たらないか?」
魔王や二百年前の出来事を伏せつつ、デルがフォースィに尋ねた。
だがフォースィは首を横に振る。
「あの剣については、魔王がいた時代からあったとしか分からないわ。それに、私が調べているのはあくまでも二百年前の出来事だけ、今の蛮族達の状況は残念ながら専門外よ」




