⑤情報交換
「フォースィ!」
名を呼ばれ、少女が毛布を押さえながら振り返る。毛布の下には紅の神官服が見えるが、服を押さえなければ肩から落ちてしまう程に大きかった。
「あら貴方達………相変わらずしぶといわね」
彼女は魔力を使う毎に若返っていく。この戦いで、どれだけ膨大な魔力を消費したかはタイサにも分かっている。だがそれでもと、彼はデルの治療を頼むために重くなった口を開こうとしたが、フォースィの方が先にデルの左腕に気付く。
「随分とやられたわね………何してるの? 早くこっちに寝かせなさい」
「しかし、その………大丈夫なのか?」
険しい表情のタイサがデルを彼女の前まで運ぶが、フォースィは眉を下げつつ困った顔で笑う。
「今更、一回も二回も大差ないわ。ただ、この後はしばらく魔法は使わないから、そのつもりで」
「すまない」
頭を下げたタイサは、フォースィがベット代わりに木箱を並べた上にデルを乗せる。そして彼女が傍に置いてあった魔導杖をデルの左腕に向けると、周囲の空間から発生させた緑色の粒子を取り込み、彼女の体を通して杖から再び放出させた。
デルの左腕や顔は粒子に包まれ、皮膚の色が緩やかに流れていく水の速さで元に戻っていく。皮膚のない部分では緑色の粒子がさらに集まり、新たに皮膚が作られ表層を覆っていった。
時間にしておよそ三分。フォースィが息を吐くと同時に、デルの治療が終わる。
「これで大丈夫よ。後はしっかり食事と休息を取って体力を戻す事ね」
「………助かったよ、フォースィ」
デルがかすれた声で呟く。
「礼には及ばないわ。あとでたっぷりと請求するだけだから」
服と一緒に胸を押さえていた彼女は、眉をひそめながら笑っていた。
「それにしても、よくあの短い時間で敵の司令官を倒してきたものね」
タイサが近くに置いてあった空の木箱を見つけて持ってくる中、フォースィはさらに細くなった足を組みながら、履けなくなった自分の靴を爪先で揺らしていた。
「実はその事なんだが………」
タイサが木箱に腰かける。デルも二人の『寝てろ』の言葉を無視して、体を起こす。そしてタイサは、司令官と名乗る77柱の幹部と戦ったが、例の剣を見て相手が戦いを避けた事を伝えた。
「あの剣を見た途端に………撤退」
「少なくとも、相手はこの剣について、何か知っているようだ」
口元に手を置いて考えるフォースィに、タイサは黒い剣を封じているランスを二人に見せた。




