②黒の剣
―――世界は黒と白だけの2色だけになった。
一体何が起きたのか、タイサとエコー以外は誰にも分からなかった。結界を張っているバードマン達は黒くなった空を見上げ、シドリーでさえ白くなった地面を見下ろし、誰もが白と黒で塗り替えられた自分の体に不安と動揺を覚え、それは恐怖となって周囲に産声を上げていく。
「こ、この力は………まさか!?」
シドリーの唇が無意識に震え、全身の毛が逆立ち、尻尾が真上に立っていた。
そして世界が元の色に戻る。
時間にして一秒足らずの出来事だったが、まるで十数分が経ったかのような錯覚がこの場にいた全員の肌に残っている。
「相変わらず恐ろしい剣ですね………」
分かっていて、そして構えていても慣れる事のできない負が集合した感情に、エコーは両腕を強く握り、必死に耐えていた。
「剣………黒い剣だと!」
シドリーがタイサの持つ武器に驚愕していた。今まで彼が持っていた騎槍の外装は地面に落ち、中からは大人の身長と変わらない長さをもつ、片刃の黒い長剣だった。
その長さもさる事ながら、それ以上に驚かせるのは全ての光を飲み込むような黒の刀身。あらゆる色の反射を許さず、霧から入ってくるあらゆる方向の光をも無視し、どの角度に向けても金属特有の光沢を許さない黒である。
闇、漆黒、深淵、それは黒以外の表現を許さない純粋な黒だった。
「くそ………相変わらずのじゃじゃ馬め!」
黒の剣を持つ手が震えている。黒い長剣はまるで意志を持つ生物のようにタイサの手から抜け出そうと小刻みに振動し暴れている様にも見える。
タイサは両手で必死に長剣を握り直し、無理矢理押さえつけた。
次に彼の足元に落ちていた大盾の残骸が、剣と同じ黒に染まっていく。複数の装甲を持ち、あらゆる攻撃に耐えてきた防具が、まるで焼けた紙が焦げていくように黒が侵食していき、やがて音もなく炭のような細かい粒子となって空気中に消えていった。
「黒の粒子………まさか、その剣は………何故お前が持っている。いや、むしろ何故持っていられる!?」
これまで強気な姿勢を維持していたシドリーが、まるで悪夢を見た子どものように目を大きくして首を振り、一歩また一歩と後ずさる。
「何だ? この剣を知っているような素振りだな」
慌てふためくシドリーを見たタイサは、額から一筋の汗を流しながら苦笑する。
「………お前はその剣のことを何も知らずに使っているのか?」
「ああ」
シドリーの問いに短く頷くタイサ。その答えを聞いたシドリーはタイサ以上に額から汗を垂らし、顎に溜まったものを手の甲で拭う。
「何て奴だ………だが、あれだけの硬さを持つ者ならばありえるのか」
シドリーは大きく息を吸い込んで胸を膨らませ、そして全て吐き出してしぼませると、元の澄ました表情に戻る。




