⑯決着
「エコー! お前の剣を俺の両手の支えにしろ!」
「何て事を!? そんな事をすれば、隊長の腕が―――」
タイサがシドリーの一撃を受け止めようと左の盾をに力を込める。
「俺の腕に穴が開くと思っているのか!? やれぇっ!」
「っ、了解!」
エコーは自分のレイリーピアを鞘に収めると、その先端をタイサの右腕に、柄の部分を左腕に当てた。
直後、シドリーの一撃が左の大盾に激突し、タイサの両腕は正面で固定される。
細い剣はタイサの両腕を支える棒の役割を果たしていた。
「無駄な事を! そのままへし折れるがいい!」
シドリーが力をさらに加えると、鞘から軋む音が聞こえてくる。
「いや、一瞬でも十分だ!」
両手の杭は正面を向いていた。
「くたばれ!」
左右の手首を同時に曲げ、二本の杭が放たれる。
左の杭はシドリーの斧を砕くが、同時に白い杭も根元からへし折れる。右の杭も斧を砕き、さらに複数の魔法障壁をも貫いたが、肝心のシドリーへ届くには至らなかった。
「エコー、離れろ!」
「了解!」
支えにしていた剣を手にしてエコーがその場から離れる。
「武器を失った程度では、私は負けていない!」
入れ替わりにシドリーがタイサの懐に飛び込んで来た。エコーはすれ違い様に、腰から溝付きの短剣で彼女の右腕を切り払うが、浅く切っただけで、彼女の動きを止めるには至らない。
そしてシドリーがタイサの胸に肩を当てた。
「砕けるまで続けてやる!」
シドリーはタイサの体に魔力を流し込み、三度目の八頸を解き放つ。彼女の放った魔力はタイサの体内で暴れ回り、体内を荒らすだけ荒らし終えると背中へと抜けていく。
だがタイサは吹き飛ぶ事なく、その場に立ち続けていた。
「馬鹿な!」
シドリーがタイサの足元を覗くと、タイサの白銀のグリーブから小さな魔方陣が展開され、タイサの両足が地面に張り付いていた。
「俺の………勝ちだな」
「くそっ!」
シドリーが後方に飛ぼうとすると、体から針の様な剣が突き抜けていた。
「ぐぅ!」
苦痛に塗れた表情で彼女が振り向くと、背後ではエコーが細い剣を光らせていた。だがレイリーピアはその耐久を越え、最後の四撃目を放った所で根元から折れる。
大きく咳き込み、口元から血を吐くシドリー。貫いた四本の穴の内、一か所以上で内臓を貫いた証であった。
「まだ俺からのが残っているぞ」
「………この、蛮族共がぁ!」
タイサは残った右腕の大盾を前に突き出し、杭を解き放つ。シドリーも負けじと左手で殴り返すが、彼女の拳から肘にかけてが跡形もなく粉砕される。
だが右の大盾もついに限界を迎え、射出機構の一部が砕けた事で、杭代わに使っていた騎槍が地面朽ちた石畳の上に落ちる。




