⑮挟み撃ち
「隊長!」
エコーがタイサの下に駆け寄る。
「その声は………エコーか。済まないが引っ張ってくれるか………地面にめり込んで、起き上がれないんだ」
狭い棺桶から出るように、タイサは両手を使って這い出ようとする。エコーもタイサの腕を掴んでは引き、ようやく石畳の地面から抜け出させた。
「隊長、大丈夫ですか?」
両腕の大盾以外、上半身の全てを砕かれた姿を見たエコーが、タイサに代わって背中についた土や石を取り払う。
「何とかな………初めて受ける攻撃だったが、どうやら耐えられたようだ」
頭を狙われなかったせいか、意識ははっきりとしている。タイサは両肩を前後させて、体の調子を確かめた。
「お前………本当に人間か?」
右腕を抉られ、回復に時間がかかっているシドリーが、様々な感情を混ぜた表情で眉をひそめている。
「何とか耐えられる程度の攻撃ではない! お前達の指揮官ですら一撃で絶命したのだ! 私の八頸は、巨人族の体を持ってしても上半身を粉砕させてもおかしくはない威力なんだぞ!」
余程の技だったのか、その連撃を受けても倒れなかったタイサに、彼女の声が荒れていた。
「指揮官………シーダイン騎士総長の事か。そうか………やはり亡くなっておられたか」
薄々は想像していたがと、タイサは小さく目を瞑る。そしてすぐに呼吸を整え直してシドリーに向かうと、傷だらけの大盾を構えた。
「エコー。頼みがある」
タイサが小さく呟く。
エコーは滅多にない彼の言葉に、思わず驚き、顔を向けた。
「俺の前に立っていてくれ………絶対に死なせない事は約束する」
「………約束も何もいりません」
エコーは迷う事なく、タイサの前に立った。
「私はあなたを信じてここまで来ているのですから」
両手の大盾を突き出し、彼女の側面を守る様に構えるタイサ。その間でエコーは細い剣を構えた。
回復を終えたシドリーだったが、二人が何を考えているか分からない。
「だが、力ではまだ私に分がある! お前の硬さか、それとも私の力か………比べてやろう!」
シドリーが両手を広げると、近くの空間で穴が左右で開かれ、そこから見える白銀の斧の柄を一本ずつ引き抜いた。
「行くぞ!」
メイド服の姿が消えた。
「エコー、どっちだ!」「右です!」
タイサは右を振り向き、シドリーの斧を大盾で受け止める。
だが彼女の言う通り、力に分がある彼女によって、右の大盾が内側に動き始めた。
タイサは左腕を支えにしようと大盾を動かす。
「させるものか」
もう一方の斧が左からも繰り出された。




