⑬一撃の間合い
「耐えたぞ!」
「くそっ、忌々しい!」
右腕の杭が来る。シドリーは咄嗟に距離をとろうと地面を蹴った矢先、エコーの剣先が彼女の視界に入った。
だが、エコーの突きは魔法障壁を二枚粉砕させ、最後の一撃を僅かにシドリーの右腕を突くだけに留ままった。
「さっきからこいつも、ちょこまかと!」
「あら………余所見をしてもいいのですか?」
格上の相手に狙われても、なお笑ってみせるエコー。そんな彼女の言葉に、シドリーはすぐに視線をタイサへと向け直す。
「貫ぬく!」
右腕の大盾に仕組まれた騎槍が、杭となってシドリーを追いつめる。
「舐めるな、人間!」
だがシドリーも空中の不利な姿勢でありながら、二本の斧を重ねて守りの姿勢をとる。放たれた杭は斜めに構えた斧を二本とも粉砕させたが、力の方向を削がれ、彼女の体までは届かなかった。
たった二合。そのたった二回の衝突で、タイサもシドリーもお互いに一撃必殺の攻撃を放ち、さらに寸での所で回避し合っている。距離を取り合っても尚二人の呼吸は自然と荒いままで、時間をかけて呼吸を落ち着かせようとしていた。
先にシドリーが口を開く。
「見事なまでの強さだ。ここまで決め手に欠ける戦いをしたのはいつ以来だろうか」
エコーの一撃を受けた右腕を左手で押さえ、小さく光らせる。その時間は僅かに数秒程度だったが、左手を離すと右腕の怪我は何事もなかったかのように治っていた。
「回復か………本当に厄介な奴だ。接近戦もできる魔法使いっていうのは反則だよな」
「やはり隊長の一撃を与えるしかありませんね」
エコーがタイサの隣で呟く。
そして気付く。
「………隊長、あの魔剣なら」
「それ以上は駄目だ。俺も考えないでもないが、あの剣には謎が多すぎる。理由は分からないが無闇に使うべきではない気がする」
それにまだ打つ手がなくなった訳ではないと、タイサは険しい顔のまま口元を緩ませた。
「相手に武器はない。ここは攻めに行くぞ」
「了解です!」
タイサはエコーと共にシドリーに向かう。
「今度はそちらから来るか………面白い!」
エコーは両手で拳を作り、ずらすように前後に構えた。
両手に大盾を装備しているタイサに剣を自由に振る余裕も隙間もない。自然とタイサの攻撃は盾による殴打となる。だが、左の盾を大きく振り下ろすも、それをシドリーの右手で易々と受け止められる。
それでよい。タイサは目論見通り、彼女の足元で石畳に円形状の亀裂が入る程に両足で踏ん張らせた。




