⑪相反する能力を極めた者達
「隊長………どうしますか?」
エコーが立ち上がり、タイサもそれに合わせて彼女の横に立つ。
「どうもこうもない。やるしかないだろう」
当初の目標である司令官が目の前にいる。しかもそれを相手から場を設定してくれるというならば、これ以上の舞台はない。相手には相手の目論見があるのだろうが、結局の所、条件を満たした方が勝つ。タイサは親友の安否を頭の隅へと追いやると、左右の杭打ちをやや広めに構えた。
「エコーは一旦下がってくれ」
「隊長!?」
驚き、振り返って口を開けようとした彼女を、タイサはすぐに違うと言って言葉を遮る。
「俺でもどこまで通用するか分からん。お前には、ここぞという時に動いて欲しい」
「………分かりました」
タイサの顔が今までにないほどに緊張している。エコーは一度だけタイサの背中に両腕を回し、すぐにその場を離れた。
「………別れは済んだか?」
シドリーも両腕の斧をやや広げるように構える。
タイサは彼女の言葉にゆっくりと首を左右に振った。
「とんでもない………こんな不器用で馬鹿な自分に気持ちをぶつけてくれるんだ。別れられる訳がない」
タイサの後ろでエコーも細い剣を鞘から抜き、剣の先端をシドリーに向けて鋭く、そして冷静に睨みつける。
「そうか」
目を瞑り小さく喉を震わせていたシドリーの姿が一瞬にして消える。
次にタイサが彼女を視界に入れた時、既に白と黒のメイド服のスカートが目の前にあった。シドリーは既に右腕の斧を振り上げ、今降ろす瞬間であった。
「ならば死に物狂いで足掻いてみるがいい!」
「は、速ぃっ!」
タイサは勘に近い判断で左の大盾を咄嗟にかざし、防御の形を間一髪で間に合わせる。彼女の一撃を盾で受け、そこから力比べをしようと考えていたタイサだったが、彼女の力の大きさに数秒と保たずに左腕が地面へと叩き付けられた。
その強さでタイサの左半身は無理矢理傾けられ、地面に向けられる。
「何て力だ!」「何て硬さだ!」
タイサはタイサで、シドリーはシドリーで互いの異常な程に特化した能力に驚いた。彼女はすかさず左の斧を横に薙いでタイサの首を狙うが、左半身を下げられた事で右手の自由を得たタイサが、手首を曲げてシドリーに杭を放つ。
「こいつっ!」
体を横に捻り、さらにのけ反って不意の一撃を避けるシドリー。
だが、今度は彼女の方が体勢を崩した。
「エコー!」
「了解!」
タイサの右盾の影から体を低くしていたエコーが彼女の死角から現れ、鋭い突きをシドリーの背後へと連続して叩き込む。
ガラスが割れる音と同時に、透明な魔力の破片が散らかった。




