⑥決戦前夜 -そして三人は集う-
「フォースィさん、隊長とは随分と長いのですか?」
「そうね、一緒に食事をした事もあるわ」
フォースィの言葉にエコーの体が固まり、タイサの方へとゆっくりと顔を向ける。
「落ち着けエコー。一緒に冒険をすれば、飯くらい一緒に食べるだろう」
「一緒に寝た事もあったわねぇ」
フォースィが夜空を見上げながら口元に指を当て、わざとらしく付け加えた。
「だから一緒に冒険をすればって………エコー、その顔はマズイ。からかわれている事に気付きなさい」
エコーの手が剣の柄にかかり、タイサは思わず後ずさるように立ち上がった。
「フォースィさんは、兄貴が冒険者をしていた時から教会に寄付をしてくれていたんです」
見かねたカエデがエコーに近付き、苦笑交じりに説明を始める。
「お久しぶりです、フォースィさん。デルさんの結婚式以来でしょうか」
「そうね。教会にはついこの前尋ねさせてもらったわ」
カエデが深々とお辞儀する。雰囲気を変えられたのか、フォースィはエコーをからかうのを諦めた。それに合わせて、エコーの表情も随分と元に戻っていく。
「そういえば、まだ借金は返しているのかしら?」
「えぇ、まだまだ返しきれそうもありません」
フォースィとカエデが真面目な顔のまま二人で笑う。
「そう言えば、俺達が王都にいないのに返済は大丈夫なのか?」
タイサが言われるまで忘れていたと掌を叩く。
「えっ? だ、大丈夫だよ兄貴。私の方から向こうには連絡してあるから! ちゃんと計画立てて多めに払っているから兄貴は心配しないで!」
カエデの声が急に早く、つい荒くなった。タイサには妹が大声を出す理由がよく分からなかったが、これまで金銭関係は全て妹に任せていただけに、それ以上は何も言わずに言葉を飲み込む事にする。
「………それはそうと、明日の戦いは大丈夫なの?」
誰がどう見ても自殺行為の作戦であった。志願した人数も人数だが、フォースィは今一度、立案者の言葉を聞こうと話を変えてくる。
「それは俺も聞きたいな」
デルもタイサ達の下にやってきた。彼は仕事に一区切りがついたと話し、残りは白凰騎士団の代理を務めているシエンに任せてきたと笑う。
だが、彼の表情はすぐに厳しいものへと変わる。
「タイサ、何を考えている? お前は自己犠牲を理由に、貧乏クジを引くだけのお人好しでは無いはずだ」
デルの言葉にフォースィが頷く。その会話を聞いてか、カエデやボーマ、イリーナ達もタイサの中心へと集まって来た。
「………ん? まぁ、いやぁ、大した事ではないんだが」
「隊長………また無茶な事を考えていますね?」
エコーが腕を組み、目を細める。
「まぁ、無茶というか何というか………」
タイサの目が泳ぎ始める。こういう顔をする時は誤魔化している合図であるという事は、ここにいる殆どが知っていた。
「兄貴ぃ?」「隊長ぉ?」「タイサぁ?」
全員がタイサを囲み、睨みつける。そのまとまりを見たタイサはついに観念したのか、両手を小さく上げると、大きく溜息をついて首を落とす。
「分かった、分かった………言うよ」
タイサも立ち上がり、わざとらしく咳払いをして仲間の表情を一瞥する。
「俺は、敵の司令官を倒しにいく」
短い言葉を放ち、タイサは拳と口を同時に閉じる。
そして周囲の反応を静かに待つ。
「それができたら苦労はないわぁぁぁぁぁっ!」
一番最初に動けたデルが、全員を代表してタイサの胸倉を掴んだ。




