⑤決戦前夜 -タイサとフォースィ-
即ち、街に残って魔王軍を食い止める作戦である。
撤退戦でも殿でもない。
文字通り、この街に残って戦い続けるのである。頃合いを見て撤退し、街を脱出した騎士団達に合流する予定もない。
その決死隊は、全て志願によって募られた。
まず立案者のタイサ達、王国騎士団からはデルと十名に満たない銀龍騎士団、そして白凰騎士団の臨時指揮官としてシエン純三等騎士率いる白凰騎士団の騎士達が、冒険者ギルドからは、この戦いで唯一の生き残りとなったフォースィとイリーナが残る事となった。
これにより、各組織から戦力を出し合った扱いとなり、後で責任の押し付け合いには発展しない事になる。
「まぁ、隊長の無茶振りにはもう慣れましたよ」
「私はもう隊長の傍から離れないと決めたので」
ボーマが二人分の夕食を平らげ、手についたソースを舐めている。そしてエコーも肩をすくめて舌を出す。
「私がいないと兄貴は困るでしょ?」
空からの援護はこれからも必要だと、カエデは無理して語気を強める。刷り込まれた帰巣本能により、タイサ達が乗って来た飛竜の姿は既になく、残っているのはカエデが乗っていた飛竜のみである。できれば妹にはこの街から脱出して欲しいと思っていたタイサだったが、彼女は一度決めた事には頑として変えようとしない。
タイサは強情な妹の性格を知っている為、一度言い合いになってからは、それ以上何も言わないようにした。
「ふん。物好きな連中め」
タイサが誰もいない闇に向かって、小さく吐き出す。
「あら、何やら楽しそうね?」
ある意味エコーが不機嫌になる問題を作ったフォースィが、イリーナと共に姿を現した。イリーナは最も年齢の近いカエデの姿を見つけると、走って彼女に近付き、両手で腰を囲む。
「フォースィ。あいつに何を教えたんだ?」
タイサが無邪気に跳ねているイリーナを指差す。
「何って………あぁ『お父さん』の件ね。別に何もしていないわ。あの子が勝手にそう呼んでいるだけ」
イリーナが両親を知らずに育った事をフォースィが簡潔に話す。そして旅の中でタイサやデルの事を時々語っていただけだと説明する。
「多分、あの子の中であなたの事を象徴する最も当てはまった言葉がそれなのよ。私もあなた達に聞かされて初めて知ったわ」
目を細め、フォースィの口元が緩む。
「それで? あぁ、それで副長さんがずっと気にしてるのね」
「わ、私は! ただ!」
フォースィが頬を赤くして焦るエコーの顔を覗き込み、悟ったように何度も頷く。年は互いにそれ程変わらない容姿だが、フォースィの笑みには余裕と妖美さの両方が含まれていた。
「気を付けなさい。あの人は必要以上に自分の感情を言葉にしないくらいに不器用だから」
「………またそんな適当な事を」
タイサが顔の前で手を振って鼻で笑う。




