③策はある
「つまり追撃を受けるのではないか、という不安だ」
住民を守りながら騎士達が撤退する以上、自由に戦う事は出来ない。その中で、残った魔王軍が三方から攻めてきた場合の損害は計り知れない。さらに言えば、今まで放置してきた事が、我々が逃げるという選択肢を選ばせるための布石かもしれないとデルが説明する。
「だが、このまま戦っても先は見えているだろう?」
「それも分かっている」
タイサのもっともな言葉に、デルがすぐに返す。
既に住民達が西門から逃げる事を制御できず、結果として見逃す形となりかけているが、この二日間で随分と住民の数を減らしていた。だが流石にその数の多さに気付いたのか、魔王軍が中央広場への攻撃を仕掛けてきたのが、今回の攻勢だったという。
手薄だった東の大通りから広場に繋がる通路でデル達銀龍騎士団、そして白凰騎士団の混成部隊が敵の侵攻を抑えていた所、タイサ達が空から合流してきたという流れをヴァルトが補足する。
「白凰騎士団………そうだ、シーダイン騎士総長は今どこに?」
あの人ならば、すぐに決断するだろうと、タイサは思い出したように彼の名前を口に出したが、デルとヴァルトは一瞬目を瞑り、首を左右に振った。
そしてデルが答える。
「騎士総長は最初の魔王軍との接触以来、行方不明だ。敵の司令官と戦ったという報告までは上がっているが………」
恐らく確認ができていないだけで、この世にはもういない。デルは最後まで断言できず、今は自分と白凰騎士団で中隊長を務めていたシエン純三等騎士が指揮を執っていると話を変えた。
「参ったな………これじゃぁ白凰どころか、王国騎士団の再編成に何年もかかるぞ」
思わずタイサから言葉が漏れる。エコーはその気持ちを察してか、タイサの袖を掴んで首を左右に振る。
「隊長、それ以上は………」
「そう、だな………今の俺には王国騎士団の事に、あれこれ言う資格はない。すまない、失言だった」
タイサは一呼吸おいて、話を戻した。
「もし、こちらが撤退する時に敵の動きを警戒しなければならないなら、それに対抗する手はある」
西門に移動させた全ての白い駒の内、一つだけを中央の広場に戻したタイサは、全員の顔を見て頬を緩めて見せた。




