②タイサの一手
「では現状を整理する」
これを見てくれと、ヴァルトがテーブルの上にある街の図面のしわを両手で伸ばした。そして手元の白と黒の駒を手際よく置くと、その陣容にタイサやエコー達が唸る。
白い駒は街の中央にあるこの場所に集中し、残りは南と北門に分散していた。対する黒い駒は同じく南と北門に同数程度、東門にも駒が多少配置されていたが西門には駒がない。
「東の敵は俺達が城壁から降りる際に随分と搔き乱してきた。再編成にはしばらく時間がかかるだろう」
「さらに、77柱の魔物を二匹追い払ってきた。死んではいないが、戦闘は当分無理だろう」
タイサとデルがそれぞれ報告し、デルが東の黒い駒を全て横に倒す。
「………隊長、西門が空いているのはなぜですか?」
全体にではなく、エコーはタイサに向かって小声で尋ねた。
それに対して、タイサは全員が聞こえる大きさで返す。
「西門が空いている理由は恐らく二つだ。一つは単純に撤退しようとする我々を誘う罠。もう一つは、逃げるなら好きに逃げろという無言の主張だ」
「恐らく後者だ。奴らの目的は、どうやら旧カデリア領の占領にある。既に伝令や勝手に逃げようとした住民達が西門を使っているが、全員無事に抜けている」
だが逆に戻ってきた騎士達はいないと、デルが付け加えた。
「それはつまり、援軍も補給も来ないという事よ」
天幕の隅で腕を組んで立っているフォースィが口を出す。
援軍も補給もなく、日々の消耗で勝ち目が見えない。敵も随分と損耗しているが、王国騎士団の方が何倍もの優位があったにもかかわらず、ついに戦力は同程度となり、士気はこちらの方が低い。どこを見ても、人間側が最悪な状況であった。
「なら、方法は一つだ」
タイサは中央の白い駒を全て掴むと西門へと置く。
「ブレイダスの街を放棄する。退路は当然西門だ」
「………隊長。またその展開ですか」
最初の一言目で、何となく察していたがとエコーが額を押さえ、ボーマが笑っている。
だがデルとヴァルトの二人は憤慨する訳なく、至って冷静な表情だった
「やはりそれしかないか………」
「何か問題が?」
元々その手段は考えていたが実行できていない。タイサはヴァルトの言葉の意味を尋ねる。
「一番の心配は、少なくなったとはいえ、これだけの大人数が移動した際、今までと同様に相手が見て見ぬ振りをしてくれるかということだ」




