⑮撃退
「流石に77柱を名乗るだけはありそうだ」
タイサが体を起こして振り向くと、やや離れた所でアモンが右腕を抑えて息を切らして立っていた。
だが、彼の右肘から先は、まるで大きな獣に食いちぎられたかのように何も残っていなかった。
「てめぇ………ただの冒険者じゃねぇな?」
出血が多いのか、アモンの顔色がすこぶる悪い。それでもタイサは頬を緩ませ、肩をすくめて見せた。
「とんでもない。ただの不器用な冒険者さ………まだ一か月も経っていない新人だよ」
盾を前に、片手剣を真横にして構え直す。
「さぁ、かかってきたまえ」
「この野郎おおぉぉぉ!」
感情的になったアモンは残った左手から炎を生み出すと、それをタイサに投げつけた。
「物理攻撃に頑丈なお前でも、魔法攻撃ならば! 多少の耐性があっても黒焦げだ!」
だが炎の塊はタイサの杭で打ち抜かれる。炎は渦を描いて掻き消え、中央に開いた炎の穴、杭から放たれた衝撃によって生まれた風がアモンの体毛をなびかせた。
「畜生め!」
「「………甘い」」
声がアモンの前後から聞こえてくる。
正面には杭を放ち終えたタイサ、ならば後ろはとアモンが振り返った。
同時に光沢が一閃、アモンの横を通り過ぎる。
「………デル、お前いつの間に」
「言っただろう? きっと油断すると」
アモンの左腕が地面に落ちる。
「退け。まだあの銀色の魔物も生きている」
デルが指さし、アモンを振り向かせた。タイサのさらに後方では両手足を失ったバルバトスが青い空を眺めたまま、必死にもがいている。
「戻ってお前達の司令官に伝えろ。『話し合う気があるのなら話を聞こう。だがそうでないのならさっさと故郷に戻れ』と」
デルが剣を納める、タイサもそれに合わせて盾と剣の構えを解いた。
「………伝えておこう」
アモンは地面を蹴って跳び上がるとバルバトスの下へと着地し、近くにいたゴブリンやオークの残党に声をかけ、バルバトスを担がせて撤退していった。
「いいのか? あれで」
てっきり止めを刺すものだと思っていたタイサは、デルの行動に驚きつつもそれを責めず、ゆっくりと声をかけて近付く。
「いいんだ。だが正直こっちも限界だ。もしお前達が来てくれなかったら、二人に足止めされ続け、一日も保たなかっただろうよ」
既に敵が街に入り込んで二日目。城壁を失い、街の防衛線を下げながら撤退と防衛を繰り返し、ついに中央広場まで目と鼻の距離まで詰められていたとデルが説明する。そして生き残っている人間は街の中央広場に集まっていると加え、タイサにも大よその状況が把握できた。
「危機一髪ってとこか。とにかく中央広場に合流しよう」
「ああ。タイサ、こっちだ」




