⑬戦友
全員で足を早め、後方に沸き続けるゴブリン達を無視しながら大通りを駆け抜ける。途中、街の案内板がタイサの目に止まり、間もなく中央の広場に到着する事に気付く。
その時、頭上から飛竜が通り過ぎ、赤い軌跡を描く矢が数本放たれた。赤い光は大通りの終点、左右に別れる道の左に曲がり小さな爆発がいくつも起こる。
空を旋回しながらカエデが手を振っていた。それを追いかけるように複数のバードマンがゴブリンを乗せたまま上空へと昇っていく。
爆発が起きた左の曲がり角から、体を半分焦がしたゴブリンが壊れた弓を持ったまま姿を表し数歩歩いたところで力尽き、石畳みの上に倒れる。
だがまだ奥から声が聞こえている。タイサは先頭を維持して走り、左へと曲がった。
「くっ!」
最悪で最適な瞬間。タイサは振り向き様に鼻先まで来ていた短剣をのけ反るように躱す。あと一呼吸遅れていれば、短剣はタイサの片方の目を貫いていた。
今までにない手強い一撃。タイサは短剣が飛んできた方向を睨みつける。
「タイサか!?」
声の主は短剣を投げた張本人であり、タイサにとっての既知のある人物だった。
「デル!? お前か、今のナイフは! 俺を殺す気か!?」
互いに近付く二人。
だがタイサとデルは、騎士の鎧を纏っていない姿に驚き合い、指を差し合う。
「「その格好はどうした!」」
言葉が重なった。
あまりの一致に、お互いが口を閉じて髪を掻く。タイサは気まずい空気を避けながら、お前からだとデルを指さし、先を譲る。
デルは分かったと頷くと小さく咳払いをしてから事情を説明する。
「この装備の方が………動きやすいからだ」と、目を逸らす。
民を守る為に、より高い地位を目指し、貴族との対立を避ける為に、『色付き』の騎士としての振る舞いを常に意識してきたデルから思わぬ言葉が吐かれ、タイサは唖然とした。
「そんなことより、お前の方こそどうした。騎士の鎧がないだけじゃなく、そもそも西に行ったんじゃないのか?」
誤魔化すようにデルは口を開け、ムキになりながらタイサを問い詰める。
「あぁん? そんなのクビになったわ!」
「なぁぁぁぁにぃぃぃぃ!」
堂々と答えたタイサに、デルが驚愕する。民を守る為に、常に低い地位に居続け、貴族から揶揄されながらも庶民の目線を意識してきたタイサから思わぬ言葉が吐かれた。
デルは思わず胸首を掴みながら彼の体を揺らし、説明を要求する。
だがその瞬間。二人は無意識に前へ一歩踏み出し、タイサは狼男の赤黒い爪を盾で、デルは顔のない銀色の魔物の槍を剣で弾いた。
「何だこいつらは! ゴブリンでもオークでもないぞ!」
「信じられないかもしれないが、魔王軍を名乗る幹部級の奴らだ! 手強いぞ!」
デルは剣を右の薙ぎ払いに変え、タイサは盾で狼男のアモンの顎を狙うが、それぞれの攻撃が躱され、距離を取られる。




