⑪塔下の攻防
「こ、根性おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ボーマの悲鳴が反響し、余韻を作りながら落下していく。
巨大な鉄球を下に向けたまま落下するボーマは、それ1つが超重量級の物体と化し、さらに重力によって速度を上げ続けながら螺旋状の階段を一直線に粉砕していった。運悪くその場にいた蛮族達は、足場を失って落下し、また城壁にいた後続のゴブリン達は追撃が出来ず、その場で立ち止まるしかなかった。
数秒後。
ボーマはついに地上へと落下し、埃を巻き上げた。彼と大鉄球の下は、階下で待機していたゴブリン達の肉片が床に散乱している。さらに後から降下してきたタイサ達がボーマの周囲に着地し、驚き怯んでいたゴブリンや重装オークを一撃の下で葬っていく。
「隊長、周囲を確保しました」
エコーが口元を手で隠し、埃から自身を守りながらタイサに報告する。
「よし。よくやったぞボーマ」
タイサは入口に向かって盾を構えたまま、腰と尻をさすって起き上がるボーマに顔を向けて労った。
「いちちちち。隊長、勘弁してくださいよ。俺は隊長程頑丈じゃないんですから」
「心配するな。その程度の様子なら大丈夫だ」
肩を二度三度上下させて笑ってみせるが、タイサはすぐに空気を切り替えさせる。
「イリーナ。聖教騎士団なら、腰の剣に膨大な魔力が溜められていると聞くが………今は使う事が出来るのか?」
聖教騎士団が帯刀している剣には強力な魔力が込められ、それを発動させる事であらゆる悪を打ち払うと言われている。だが放つ事ができる回数には制限があり、使い果たすした場合は、上位の魔法使いや神官に魔力を込めてもらわなければならず、また自分の都合で乱発できないよう、自身の魔力では回復できない絡繰りがされている。
「うん。あと一回分は残っているはずだよ」
腰の剣に手を置き、イリーナが頷く。
「………よし。では俺が最初に飛び出すから、ここぞという時に使ってくれ」
「隊長! またそんな無茶を」
エコーが声に出すが、すぐに口を尖らせた不満顔で諦める。タイサも彼女の気持ちを汲んだ上で小さく苦笑して見せ、そのまま外に続く出口へと顔を向けた。
「行くぞ!」
タイサが部屋を飛び出し、外へと出る。
太陽の光が降り注ぐ明るい世界へと足を踏み出すと、小さな光と高い音が無数に放たれ、遅れて小さな鉄球がタイサの全身を襲った。
「隊長!」
「顔を出すな、エコー! そのまま待機だ!」
盾やその隙間の奥にある鉄の胸当て、盾では届かない膝、脛当てに何か硬く小さい物が命中していく。
だが、いずれもタイサの体を傷付けるには至らず、彼はその正体が分からぬまま攻撃が止むまで耐え続けるしかなかった。
それでもと、盾の隙間から正面の景色を覗くと、ゴブリン達が列をなして鉄と木でできた筒のようなものを向けている姿だった。
「あの筒から放っているのか」
初めてみる武器に、タイサは攻撃を受けながら冷静に相手の動きを見続ける。筒を構えるゴブリン達は、一発放つ毎に金属球を込め直していた。その動きは弓を構え直すよりも早く、攻撃後の隙を狙う事は困難だと判断する。




