⑩解き放たれる産声
階段前はゴブリンだけでなく、鉄の防具で身を固めたオーク達も現れ、街へと続く道を塞いできた。
「さぁ、試すぞ!」
タイサは重装オークが降り下ろす斧を左の大盾で反らすと、そのまま懐に飛び込み、杭の先端を相手の鎧に向ける。
そして盾の裏にある握り手を掴んだまま、手首を曲げた。
解き放たれる産声は、巨大な轟音と衝撃の塊だった。
「ぐっぅ!」
まるで大木槌を鉄壁に当てた際に発生する反作用で、タイサの左腕は後方へと弾かれる。だが、杭を撃たれたオークは両足のみ残して吹き飛び、それより上を残さなかった。さらに後方にいた二匹のオークも貫通し、周囲のゴブリンも吹き飛ばされた鎧の鉄片によって体中を穴だらけにして即死していた。
「こいつぁ………とんでもない武器を作ったな」
驚きを隠せないタイサ。彼が引いた取っ手を離すと、赤く染まった白い杭は自然と元の位置へと収納される。杭の破損もない。
「お陰で階段の入口を確保できました」
エコーが石造りの小部屋を壁端から覗くと、オークやゴブリンの肉片で汚れた階下からさらに蛮族達の増援が昇ってくるのが見えた。
そこに殿のボーマがタイサ達に追いついてくる。
「ボーマ、一旦前に出てくれ」
「了解でさぁ!」
戦闘で気持ちが昂っている中、タイサはボーマを先頭に立たせると、真下に続く階段を指差した。
「鉄球を抱えて落ちてくれ!」
「了解でさぁ………って、隊長ぉうぉう!?」
迷いのないタイサの指示に、ボーマは途中で我に返り、タイサと階段下、そして自分自身を順番に指を向ける。
タイサは階段で敵に挟まれる事を避ける為だと説明し、それが無理ならイリーナを先頭にして突貫すると代案を示した。
自分よりも年若い女の子が先頭に立つ。ボーマは顎の肉で首が隠れるように、すぐ傍にいる少女を見下ろした。
イリーナは意味が分からないまま純粋な瞳でボーマを見つめ、首をかしげた。
「また変態?」
「ちっくしょおおぉぉぉぃ!」
ボーマは泣きながら鉄球を真下に構え、螺旋状の階段に向かって飛び降りる。
「よし、俺たちも続くぞ!」
後続のゴブリン達が来る前にと、タイサ達はボーマの叫び声を追いかけた。




