⑤用意周到
「隊長っ! 自分はも、もう限界です!」
前に突き出たお腹を揺らすボーマは、犬のように舌を出しながら呼吸を繰り返していた。頭から腕に至る皮膚の全てから汗が吹き出し、そのまま干からびる勢いであった。
「もうすぐエコー達と合流できる、頑張れ!」
そして最後の木と木の間を抜け、タイサとボーマは同時に茂みを飛び越える。
「た、隊長!?」「兄貴!?」
狩りに行っていた二人が慌てて戻ってきた事に、エコーとカエデは持っていたお椀を落としそうになった。
「「飯があるじゃないかぁぁぁぁ!」」
振り返ったタイサとボーマが思わず指をさし、同時に叫ぶ。
だがカエデは悪びれる事なく、不機嫌な顔を見せた。
「これは私達の分。兄貴達とは別にしておいたの」
「ぐぬぬぬぬ」
だがこれ以上ここに留まっていられない。タイサは言いたい事を堪えつつ、妹達に背を向ける。
「ボーマ! 2人に説明しておけ、そして戦闘準備だ!」
「わ、わっかりましたぁぁ!」
地面にあおむけで倒れ、大きく息を切らしているボーマは、タイサに向かって手を振った。
タイサは棒に縛られた野豚を持ったまま再び走り出す。
「ちょ、ちょっと兄貴。それ今日のご飯じゃないの?」
「カエデちゃん、危ない!」
タイサの進む先を覗いたカエデが、首根をエコーに掴まれて引き倒された。その瞬間、茂みから現れた巨大な野豚が通過し、カエデの手からこぼれ落ちた椀が、無残な姿で割れて地面へと沈む。
巨大野豚はタイサの追跡を諦めない。
「謝っても、許してくれないだろうな」
仕方がないとタイサは森の中で大きく右回りを始めた。巨大野豚も、タイサの動きに合わせようと旋回し、近くの木々を壁代わりにして無理矢理方向を切り替えていく。
「………何て奴だ」
タイサは元来た道を戻り、カエデ達のもとに向かった。
「兄貴!」「「隊長!!」」
エコーの指示を受け、カエデ達は既に戦える準備を済ませていた。
「来るぞ! カエデは安全な高所から前足を、エコーは右、ボーマは左だ!」
声を上げるタイサの先には、自身の騎槍が地面に刺してあった。タイサはそれを掴むと、棒で縛った野豚を茂みに投げ込み、さらにその先にある鉄の盾を左手に装着する。
「来ます!」
エコーが騎槍を叫んだ。
地面が揺れ、目の前の木々が枯れ木の様に飛び散った。