⑤タネガシマ
東の大通りの終着地。
外界との境界線を守るようにそびえる東門は、王都のそれと比べると若干見劣りするものの、馬車が四台から五台は同時に通れる幅、二階建ての民家の倍はある高さをもち、十分に立派な存在感を示している。
その東門の前。まだ門は健在で閉ざされたままだったが、石畳を貫き穴を開けたバルバトスが騎士達の前に唯一人で立ちはだかっていた。
「ズイブント、カズガオオイ」
顔のない銀の頭を左右に振ると、バルバトスは自分が赤と青の鎧を着た騎士達に囲まれている事を理解する。既に魔物の足元は体中を穴だらけにされた騎士が複数倒れており、石畳の溝に赤い液体の道が走っていた。
バルバトスは両手に持っていた鉄と木でできた筒を体の中にしまうと、別の場所から同じ筒を取り出して交換する。
「奴一人かっ」
デルとフォースィ達が到着した。彼は周囲を囲んでいる騎士達に距離をとるように命じ、自分は前に進んでバルバトスと対峙する。
「………本当に馬鹿が付くほどに真面目な性格ね」
やや後方に離れた形で、フォースィも彼と共に一歩歩を踏み出した。
「それは褒めているのか? それとも貶しているのか?」
「どっちもよ」
即答するフォースィの言葉に、デルは両肩を吊り上げる。
そしてデルが腰の剣を引き抜く。
「さて、とりあえずは目の前の敵を何とかするとしようか」
剣先をバルバトスへと向ける。
「………アモント、タタカッタオトコ、カ」
瞬間。バルバトスは両手の筒を向けて光らせる。ほぼ同時に響く短く高い音、そして放たれる小さな二発の鉄球がデルに向かった。
だが、デルはその場から動かず、剣を二度振り、自分に迫って来た鉄球を弾き落とす。
「筒の性能は既に分かっている。弓よりも速い事は脅威だが、直線状に飛び出して来る事さえ分かっていれば、何とでもなる」
「ソウカ………サスガニ、タネガシマダケデハ、シトメラレナイカ」
「タネガシマ? それが筒の名前か」
バルバトスは筒の穴から鉄球を込め直すと、筒の先端を空に向けながらその武器を見せつける。
「ソウダ。マオウサマガ、ワレワレニ、ツタエテクダサッタ、ブキダ」
弓よりも早く、遠く、威力のある理想的な武器。バルバトスはその武器を誇るように語った。




