④敵の狙い
「忙しそうね」
黒髪を耳の裏にかき分けながらフォースィが声をかけた。
デルは彼女の声に反応して振り向くと、勘弁してくれと苦笑しながら軽く両手を広げ、肩をすくめる。
「他人事みたいに言えるのは、お前さんくらいだよ、フォースィ。それじゃぁ、早速で悪いがこいつを見てくれ」
デルが街の図面に配置されている白い駒を指さす。白い駒には弓の絵が描かれており、街の城壁や中にも等間隔で配置されていた。
「お前の話を基に、比較的高い建物の上に騎士団『翼』を配置し、空からの攻撃とゴブリン達の降下を防ぐようにしている。足りない所はギルドから弓兵や魔法使いを充てて対応してもらった」
だが、と彼が西門に指を動かす。
「住民達の避難がまだ終わっていない。しかし、西門まで余裕がないのか、それとも興味がないのか分からないが、魔王軍は東に集結したまま動こうとしていない」
「東門に巨大な魔物は確認できる?」
ゲンテの街ではトロール達に門を破られているとフォースィが確認を求めた。デルは首を左右に振り、東門どころか他の門でも確認できていないと答える。
蒼獅騎士団団長のヴァルトも会話に入ってきた。
「敵は東門からやや離れた所で集結。バードマン達は弓や魔法の射程外から街の上を旋回し続けている………奴らの狙いは一体何だ?」
ヴァルトは時を刻むように指の爪でテーブルを叩く。地上、空、そのどちらも敵は積極的に動こうとしてこない。
フォースィが口を開く。
「この街に地下はあるのかしら? 王都には地下水道が張り巡らされているけれど」
「いや、この街にはない」ヴァルトが即答する。
だが、デルだけは地下という言葉に反応し、手を顎に当てて何かを思い出そうと唸った。
そして口を開けて声を上げる。
「77柱の中に、地下を移動できる敵がいたぞ!」
ベルフォールを瀕死の状態にまで追い詰めた銀色の魔物、バルバトスである。
その言葉を聞いたヴァルトの決断は早かった。すぐに近くの騎士を呼び出し、東門の増援を指示する。
だが、伝令の騎士が広場を出ると同時に、東から大きく高い音が何度も響き渡った。
「………遅かったか!」
デルはテントの中で待機していた部下に声をかけると、腰の剣に手を当て現場へと走り出す。
「だから自分から行かなくてもいいのに………」
良くも悪くも立場をわきまえない彼の行動に呆れるフォースィは、仕方がないと呟きながらデルの後を追いかけた。




