③終わりの始まり
「フォースィさん!」
今日は随分と縁がある日である。フォースィの下に、若い冒険者達が集まって来た。
それは、王都からこの街まで旅を共にしてきたリーバオ達であった。
彼女の中で複雑な感情が渦を巻く。
「………あら、あなた達。まだこの街にいたの? さっさと逃げなさい。もうすぐここは戦場になるのよ」
十数匹のゴブリンを倒すのがやっとの中堅冒険者の成り立てに出番はない。フォースィはベンチから立ち上がると、手に取った魔導杖でスカートの裾を払う。
「いえ、自分達も街の防衛に当てられました」
「まだまだ力不足でしょうが、俺達にも何かが出来るはずだ」
リーバオ、それに続いて盗賊のライドも拳を握って彼女に心意気を見せようとする。弓兵のレイリア、僧侶のセディの女性達も真剣な顔で頷いていた。
冒険者ギルドでは、既に王国騎士団に助力するよう最優先の要請が出されている。駆け出しの冒険者達には避難する住民の誘導と護衛を、中堅以上の冒険者には街の防衛が指示されていた。つい数日前まで駆け出し扱いだった彼らには気の毒だが、ギルドの指示である以上、この街に残らなければならない。リーバオがギルドの状況を説明している中、フォースィは目を細めつつ、彼らの最も可能性の高い未来を想像しつつも、それを口にする事が出来なかった。
「生き残るコツは、常に引き際を選択肢に入れておく事よ。精々長生きしなさい」
そう言ってフォースィは、リーバオ達とすれ違うように歩き始めた。
その時、街中を駆け抜けるような笛の音がけたたましく鳴り響く。
フォースィやリーバオ達だけでなく、せわしなく動いていた住民達も顔を上げ、笛の音に足を止める。
「………始まったわね」
フォースィは青空に浮かぶ無数の黒い影に目を細めた。
白、赤、青の鎧を着た騎士達が、数人ごとに集まりながらフォースィの横を次々と通り抜けていく。
ブレイダスの街の中心に位置する中央広場。かつて魔王が街を滅ぼした際にできたといわれる隕石跡の前に、王国騎士団の司令部が設置されていた。
天幕を何枚も重ねて繋げた空間では、テーブルを合わせて作った上に街の区画図と周辺の地図を重ねて敷き、その上に白と黒の複数の駒を点在させている。
その周囲で、デルとヴァルトは交互に騎士達に指示や伝令を出し続けていた。




