①狂乱の中心
フォースィは東西南北の大通りが交わる中央広場、隕石跡への入口前にある噴水の周辺に置かれたベンチに腰掛け、ブレイダスの住民達の慌て様を静かに観察していた。
ベンチは噴水の周囲にいくつもあり、普段は多くの老若男女が太陽を浴びる為、疲れを癒す為、人を待つ為に座っているが、今は紅の神官服を着た彼女以外、誰一人として座っている者はいなかった。どの住民も無駄に大きな声で叫び合い、普段よりも足早に人の往来が激しくなっている。
「………酷いものね」
住民達は両手に持てるだけの荷物を脇に抱え、ある者は馬車に詰め込み、ある者は着の身着のまま馬車に乗り込み、またある者は小さな子供の手を繋いで西門へと駆け足で向かっていく。
白銀の鎧を纏った『色なし』の騎士達が、声を上げ、身振り手振りで住民達を誘導している。中には荷物を馬車に乗せる手伝いをさせられている哀れな騎士もいたが、焼け石に水とはこの事で、二万の住民に対し、動員されている騎士の絶対数が足りない状態であった。
「有象無象とは、まさにこの事ね」
ベンチの手すりに肘をかけ、フォースィは頬杖をつきながら必死の形相で街を離れる人間模様を眺め続けている。どんなに富む者も、そうでない者も、いつもは威張り散らす者も、等しく同じ顔をしていた。
―――四時間前。
王国騎士団の本隊がブレイダスの街へと入ってきた。住民達は蛮族達を追い払ったのだと歓呼の礼で迎えようとしたが、騎士達の表情や様子を見て全員が言葉を失った。
ウィンフォス王国が誇る王国騎士団、その中でも『色付き』と呼ばれる一流の騎士達が、無言で東門から入ってきたのだった。無傷の者は皆無。負傷し、武器や防具を失い、瀕死の者や歩けない者が担がれ、運ばれていく騎士達。
その姿を見た住民達は、そこでようやく街の外で起きた事を悟ったのである。
王国騎士団が蛮族達に敗北したのだ、と。
白凰騎士団の団長であり、騎士総長のシーダインは行方不明。団長代理のベルフォールは瀕死。紅虎騎士団のザルーネ団長は重傷という状況。現在、王国騎士団の全軍は蒼獅騎士団のヴァルト団長によって統率されており、その補助としてデルが支援に回っている。
住民の代表に事情を説明したのは、入場してから二時間後、今から二時間前に当たる。ヴァルトとデルは、王国騎士団の権限で住民の避難、義勇兵の募集、冒険者ギルドへの協力依頼を発令させたのである。
そして現在に至る。
ブレイダスの人口は約二万人。これだけの人数が一斉に我先にと騎士達の声を半ば無視して動いているのだから、混乱しない訳がない。フォースィはぶつかり合う住民や荷物が腕からこぼれていく様、さらには商店の窓ガラスが割られ、心無い者達が略奪を始めていく様子を見ながら何度も溜息をついた。




