⑩ブレイダスの戦い -一対二の戦い-
「デル団長! またあなたかっ!」
蛮族の長の一人と対峙していた高揚を潰され、ベルフォールはデルのしつこさに怒りを通り越して呆れ始めた。
デルは彼の表情を無視してでも、口を開くしかなかった。
「紅虎騎士団が後退を始める! 蒼獅騎士団も同様だ! 俺達も呼応して一旦戦線を下げるぞ!」
「なっ!?」
ベルフォールは二つの騎士団すらが下がる事に一瞬言葉を詰まらせたが、それでも彼は首を縦には振らなかった。
「駄目だ! 王国騎士団は決して敵に背を向ける訳にはいかない!」
倒すべき敵が目の前にいる。彼は剣を持ったまま、一歩を前に踏み出そうとする。
「ほぉ、一日ぶりだな………確かデルとか言ったか?」
アモンがデルの姿に気が付く。
「お前は、アモンだったか。驚いた、まだ生きていたのか」
デルがベルフォールの前に立つと、狼男の体を上下に見て感心した。
アモンは彼の緩んだ口元を見るや、自分の左肩から右腹部にかけて一本の爪でなぞる仕草をする。
「悪いな。正直な所、昨日は油断しただけだ。危うく味見だけでバッサリといく所だったぜ」
「気にするな。きっと今日も油断するさ」
ベルフォールの知らない話が二人の中で進んでいく。
アモンがベルフォールを横目で見るが、すぐにデルと話を続ける。
「あの後オセから聞いたが、あんた………あいつの姉貴も斬ってるんだって? そりゃぁ、俺一人だと分が悪くて当然だ」
だが結果として調度良いと、アモンは牙を見せながら笑い、地面を何度も軽く蹴りながら足元を平らにならす。
「………二対二なら、どうなるかな?」
直後、ベルフォールの背後の地面が盛り上がり、銀色の人型が土の塊を巻き上げながら姿を現した。
「なっ!」
二人だけの会話に苛立ちを覚えていた彼は、完全に不意を突かれ、振り返るのが精一杯だった。バルバトスはそれを狙い、右腕を雑巾のように捻り、槍上の形へと変化させると、その先端をベルフォールの胸元へと向けて放つ。
「させるかっ」
デルが地面を一蹴りすると、瞬時にバルバトスの傍で止まり、前に屈みながら抜刀して銀の槍を上方へと弾く。
「ベルフォール! お前は騎士をまとめて早く後退しろ!」
デルはさらに剣を横へと薙ぐが、バルバトスは足についた車輪で急速に後退、距離をとった。それを狙ってアモンがデルの背後から赤黒い爪を上下、さらに突きを込めた三方向から攻撃を加えるが、彼もすかさず振り返って同じ数の剣撃で受け弾く。
「ベルフォール!」
デルの声がさらに大きくなった。




