⑧ブレイダスの戦い -前線-
大勢の騎士達が馬を走らせていく中、白い鎧を着た女性騎士がデルの横で馬を止めた。白い兜から見える僅かな金色の髪、そして青い瞳がデルの目を直線状に繋ぐ。
「………シエンか?」
デルは同期の騎士の名前を声に出した。
彼女は貴族出身でありながら、自由な気風で育ち、デルだけでなくタイサとも分け隔てなく付き合い、訓練生時代を共に過ごしてきた。デルやタイサが団長になってからは、やや疎遠になっていたが、彼女の姿は大人びた事以外、何ら変わらなかった。
シエンは久しぶりと短く言葉にすると、そのままベルフォールの件を詫びる。
「デル、ごめんなさい。私達の騎士団の問題なのに」
「何を言っている。別にシエンが謝る話じゃないだろう?」
素直に思った事を口にする。
彼女はデルに謝意を伝えると、そのまま前線へと駆けていった。その背中は戦いに行く気迫よりも、王国騎士団の騎士という呪縛に捕らわれた諦めに近いものに、デルは見えた。
「………いいの?」
フォースィが目を細めて含みのある笑みを見せる。
「良くないさ」
やるべき事は分かっている、何も変わらないと、デルは自嘲した笑みで返す。
「なら早く行きなさい………私はここで降りるから」
そう言ってフォースィは、馬から器用に飛び降りた。
「一人でも多くの騎士を助けるのでしょう? あの子もしっかり助けてあげなさい」
「ああ、分かっている」
デルは残りの黒銀の騎士を連れて前線へと走り出した。
前線では激しい戦いが繰り広げられていた。
ゴブリンの放つ光と音の筒によって、接近するまでに大きな被害を出した騎士達だったが、一度敵陣の懐に飛び込めば、たちまち乱戦となり、重装オークと騎士達のすり潰し合いに発展した。
互いの損耗はほぼ互角。
騎士達は先日の奇襲で大きな損害を出したものの、陣形を整えた騎兵の突進力は装甲の厚いオークとはいえど無傷では済まず、集団戦法によって一匹、また一匹と減らしていく。
だが魔王軍を称する蛮族達も、重装オークによって騎馬の突撃を抑え込み、その隙間から長槍を持ったゴブリンが騎士達の死角を狙って貫いていく。さらに、後衛の白凰騎士団を襲撃していたバードマンの空中部隊が前線に移動し、騎士達を上空から狙って鉄球を放っていく。
互角だった騎士達の動きが空中と正面の攻撃にさらされ、最初の勢いは確実に削られていた。




