⑦ブレイダスの戦い -届かない声-
「ベルフォール!」
デルに名前を呼ばれた彼は反射的に振り向いたが、その正体が分かるやすぐに顔にしわを寄せて不愉快な顔になる。
「何ですか! 今は戦闘中です!」
そもそも率いる騎士も殆どなく、出番のない人間に用はない。そう言いたげな彼の顔に、デルは必死の形相を作って正面から言葉を放つ。
「空からの攻撃を受けて後方の騎士達が混乱し、負傷者が出ている。ここは空からの防御に徹しながら、混乱を収拾させる方を優先させるんだ! 微力ながら俺も手伝おう!」
やや大袈裟ともとれるがデルは両手を広げ、後方の状況を訴えた。
ベルフォールが王国騎士団の理想の姿を『勝利』と信じ、疑っていない事をデルは知っている。そして、支援や救援と言った行動を消極的と判断し、疎かにしがちな性格である事も知っている。
そもそも後方に配置され、攻撃を受け続けて我慢できる性格ではない。機会を窺って一糸乱れぬ陣形で突撃したくて堪らないのだろう。だがその行動が自分の騎士団を、ひいては全騎士団を危険に晒しかねない。デルは何としても彼を止めようと必死に口を開けて言葉をぶつけた。
だがベルフォールは眉間にしわを寄せてデルを睨み返す。
「冗談ではない! 白凰騎士団は王国騎士団最強の騎士団だ! シーダイン団長に代わって指揮する私が、その名誉を傷つける訳にはいかない!」
彼は舌を鳴らしてデルから顔を逸らすと、味方に向けて剣を掲げた。
「我々はこれより、前衛を援護する為、蛮族達に突撃を敢行する!」
「待て、ベルフォール! 後方から勝手に騎士団を動かせば、前線も混乱するぞ!」
デルは馬を近付け、ベルフォールの肩を掴む。
「シーダイン騎士総長の事を想うのならばよく考えろ! あの方はそんな判断はしない!」
「お前に何が分かる!」
首を強く左右に振り、デルの腕を払い、ついにベルフォールが激情した。
「貴族でもない貴様が………見習い騎士だった頃のお前がシーダイン様の傍付きになっただけでも腹立たしいのに………ついには誉ある銀龍騎士団の団長だと? 特別扱いされるのもいい加減にしろ!」
今まで見た事がない剣幕に、デルは一瞬言葉を失った。
「………ベルフォール。何を言っているんだ? 俺は―――」
「実力だというのか!? 銀龍騎士団を壊滅させたお前に、何も言う資格はない!」
俺は違うと、ベルフォールは周囲の騎士達に号令をかけ、自らを先頭に一斉に馬を走らせていく。
デルは何も言い返せず、多くの騎士達を無言で見送っていた。
「………見苦しいわね。男の嫉妬って」
デルの後ろで、無理矢理話に付き合わされたフォースィが肩をすくめる。




