⑤ブレイダスの戦い -最後方にて-
―――翌朝。
斥候の報告から蛮族の群れを正面に発見した事で、王国騎士団に緊張が走った。
各騎士団の団長達の命令で戦闘準備の号令が発せられ、騎士達は一斉に防具を纏い、武器を手にする。小隊長はその場で伝えられるだけの指示を出し、さらに騎士達を奮起させる。
そして団長不在の白凰騎士団を後衛に、紅虎と蒼獅の両騎士団が主力として前衛を担当する事となり、やや横に長い陣を築いた。
「士気が低い」
団長代理として指揮を執っているベルフォールから疎まれ、白凰騎士団の陣に入る事すら断られたデルは、数名の部下と共に馬上で待機しながら最後方から目を細めた。
「見なくても分かるわよ」
デルの横でフォースィがつまらなそうに言葉を返す。一晩経って一歳の成長を遂げた彼女は、紅の神官服を無理矢理身に付けて立っている。肩や胸回りに服の余裕さが残り、彼女自身不便そうに何度も服の位置を直しているが、昨日の服よりはマシだと強情を張っている。
「どうせ、白凰騎士団の事でしょう?」
「ああ、そうだ」
白凰騎士団の指揮は副長のベルフォールが務めているが、団長不在により騎士達の動揺は大きく、陣を築いて待機している間も、騎士達の頭や体が左右に動き、私語が絶えない。
「だからこその後衛、か」
デルの独り言が続く。
「それで、あなたの仕込みは大丈夫なの? 夜中まで随分と、こそこそしていたようだけど」
フォースィの目がデルに向けられると、デルは眉を上げて肩をすくめた。
「何の意味よ?」
「何とも言えないって事さ。予想通りになって欲しくはないし、予想通りなら上手くいって欲しい」
謎かけのような表現に、フォースィは理解しつつも怪訝な顔を示す。
銀龍騎士団の一人が報告に戻ってきた。
どうやら前線では蛮族達とのにらみ合いが続いているらしい。
「持久戦………じゃぁないだろう、な」
デルが戦場に到着した時点で、魔王軍も後方の補給地として使うはずだったゲンテの街が襲撃され、奪還されている事に気付いている。補給線を封じられた以上、持久戦で不利になるのは魔王軍の方だという事は相手も分かっているはずである。
「なら、何かを待っているのよ」
フォースィが空を指さした。
空には黒い影がいくつも見え始め、鳥の群れのように鶴翼の列をなしている。
「バードマンの群れ………何かを背中に乗せている」
他の騎士達もバードマンの群れに気付き、次々と指を向けて目を細めた。
「ゴブリン? だが落下させるには高さがありすぎる」
デルがバードマンの背中に乗せている姿が見えた瞬間、音が響いた。
数秒後、白い鎧を着た騎士の一人がその場に倒れる。
「………やられたわね」
フォースィの顔が険しくなる。




