④やるせない想い
「あなたも物好きね。本隊への報告くらい部下に任せておけばいいのに」
「そういう訳にもいかないだろう………結果としてはあまり変わらなかったが」
そう言って自嘲するデルは、本隊と合流して得られた情報をフォースィにも伝えた。特に魔王軍の目的がシモノフの大関所跡を境にした東部の占領だと説明すると、彼女は顎に手を当てながら自分の知識と照らし合わせる。
「カデリア自治領はかつてカデリア王国の領土。二百年前の戦争では、ウィンフォス王国が戦争に勝利した事になっているけれど、王都ブレイダスを陥としたのは魔王率いる魔王軍よ」
「つまりなんだ? 奴らにとっては自分達が正当な所有者だと言いたいというのか?」
二百年前の主張を今更。デルは馬鹿げた話だと両手を広げる。
「私にだって本当の事は分からないわ。ただ何とかしないと、数日後には王国の領土と人口はどちらも半分になわね」
魔王軍はシモノフの大関所跡から先は進まないと言っていたが、事はそれだけでは終わらない。カデリア自治領は農業が盛んな地域が数多くあり、今では王国の食料庫として欠かせない場所になっている。それらが一瞬にして失われれば、王国は一気に食糧不足に陥る事は明白で、仮に魔王軍がそれ以上動かなくとも、ウィンフォス王国は滅亡の道を進む事になる。
「くそっ。俺は………どうすれば」
一緒に連れてきた銀龍騎士団は十名に満たない。ベルフォールの言葉に納得する訳ではないが、これだけの人数で戦局を変えられる訳がない。
「デルは明日の戦いで、王国騎士団が負けると思っているの?」
藪から棒にフォースィがデルに投げかける。
「何だいきなり………まぁ、即座にとはならないだろうが、結論だけ言えばそうなるだろうな」
「なら、負けた後はどうなるのかしら」
フォースィが仮定の話を一つずつ積み上げる。デルは二度目の問いから、フォースィの言いたい事が少しずつ見えてきた。
「成程。お前の言いたい事が何となく分かったよ」
「あら、そう?」
ならもう言う必要はないだろうと、フォースィはその場から離れ始めた。
「フォースィ」
デルの言葉が、彼女の足を止めさる。
「まだ魔法は使うなよ? 恐らく必要になるのは明日じゃない」
「………分かっているわ。私もこの服装で戦うのは御免よ。借り物だから」
互いに小さく笑い、フォースィは風に向かって去って行く。
一人残されたデルは、ポケットに手を入れながら夜空を見上げた。そして感慨深く、特に強く輝く白い星を見続ける。
「………王国騎士団が敗北する、か」
先程とはうって変わり、冷えてきた風がデルの体を撫でるように通り過ぎた。




