①潰走する者
ブレイダスの街影がうっすらと前方に見える。
蜃気楼よりもはっきりと映る姿を遠目に、デルは騎士達の姿を見て回る。
「………酷いものだな」
命からがら逃げる事がてきた騎士達は鎧の色に限らず、その場に座り込んでいた。意気揚々と蛮族を退治すると伸びた背筋は既に過去の姿となり、皆一様に汚れた鎧のまま俯いている。
本来ならば鎧を磨けと小隊長辺りから小言が飛ぶはずだが、それすら聞こえてこない。
デルは自分の騎士団と面影を重ねながら目を細めると、彼らの横を通りすぎ、大きな天幕の布を開いた。
「一体奴等は何なんだ!」
まだ続いている。デルは一瞬で眉をひそめた。
白凰騎士団の副長を務めるベルフォールは、テーブルを何度も叩きながら感情的に声を荒げていた。
「魔王軍!? 77柱!? 今までそんな奴等の存在など聞いていないぞ!」
そんな事はここにいる全員が分かっている。紅虎と蒼獅の両騎士団の団長は、腕を組んだまま彼の発言に一々答えなかった。
怒りが収まらないベルフォールは、中に入ってきたデルに目を向ける。
「デル団長、先遣隊のあなた達は一体何をしていた!」
「………返す言葉もない」
小さく頭を下げるに留める。
銀龍騎士団のほぼ全軍を失っただけでなく、ゲンテの街を戦禍に巻き込み、多くの住民に被害を出し、あまつさえ後方に魔王軍の存在を伝える事も出来なかった。デルは彼に胸ぐらを掴まれても、淡々と答えるしかなかった。
「ベルフォール、もうその辺りで止めておけ」
赤い鎧を着た男が、感情的なベルフォールを見かねて肩を掴む。毛深い太い腕が無抵抗のデルから彼を無理矢理剥がした。
「すまない、ザルーネ卿」
「いや、貴殿が無事で良かったと思う。お陰で色々な情報を得る事ができた」
静かに謝るデルの横に、青い鎧を着た長身長髪の男が現れて声をかける。背の高い細めの優男という言葉が彼に合うが、これでも『静寂』の二つ名をもつ蒼獅騎士団の団長である。無駄のない体から出される落ち着いた声に、紅虎騎士団の団長であるザルーネも同意した。
「ヴァルト卿の言う通りだ。あの蛮族共の強さは誰も知らなかった。今その責任について、追求しても意味はない。それよりも、これからの事を考えるべきだろう」
戦場では燃えるように暴れ、しかし使う魔法は炎に限らず水や氷という相反する技をもつ事から『氷炎』の二つ名をもつザルーネは、デルが持ってきた敵の布陣図の上に筋肉が盛り上がる掌を押し付け、周囲の目を一点に向けさせた。




