⑧魔王軍幹部
「バルバトスか………別に手こずっている訳じゃないぜ? 楽しんでいるだけさ」
重装オークの間から、アモンが手の平を空に向けながら目を大きくさせて姿を現す。
自然と前後を囲まれていた。
シーダインは生き残った騎士を密集させながら陣形を再編し、相手の会話から出方を伺い続ける。
だがそこに、空から茶色い羽をもつバードマンがバルバトスの側面に降り立った。
「両翼の人間達には逃げられた。中央の詰めが甘かったからだと、バーガンディが大層悔しがっていたぞ?」
アモンは、空から降りた亜人をフォルカルと呼び、『それは済まなかった』と、反省の見えない笑みで
詫びる。
「だが、目的は達した。潰走した敵は副官のイベロスに任せてある。それ程心配する事はないだろう」
アモンの側面から、白と黒のメイド服を着た白い毛並みをした猫の亜人が姿を現した。
騎士達は完全に包囲された。
ゴブリンやオークでもない亜人達は、アモンと名乗った存在と同様かそれ以上の地位と実力をもつ者達である。シーダインは彼らの存在を即座に見極めた。
汚れのない白い毛並みの猫メイドの亜人が、武器を構えたままのシーダイン達に両手の平を見せながら近付き始める。
「騎士団の中でも、地位の高い方とお見受けするが? 名前を聞かせてもらえるだろうか」
だがすぐに視線を空に向けると、彼女は『失礼』と語り、腰に手を置く。
「まずは私から名乗るべきだな………私の名はシドリー。栄えある魔王軍77柱が1柱、そして今回の遠征軍の総司令官を務めている」
シドリーと名乗る猫メイドは武器一つ持たず、堂々と名乗った。一見、騎士の誰かが切り込めば易々と彼女を討ち取れそうな距離と姿勢だったが、それを実行できる者は皆無だった。
ふざけている様だが隙が全くない。細い目だけで笑って見せる彼女の表情は『やれるものならどうぞ』と言わんばかりの余裕すら見てとれた。
シーダインはいつの間にか湿っていた右手の力を弱めて剣を降ろすとそのまま地面に刺し、両手を柄の上に置く。
「私はウィンフォス王国騎士団の騎士総長を務めるシーダインだ………蛮族達が我々に何の用だ?」
「蛮族………ねぇ」
これは参ったとアモンが小馬鹿にするように首を振る。仲間の顔を見ると、シドリーを含め、彼の仲間の全員が小さく肩を震わせて笑っていた。
その中でも、シドリーが最も早く表情を作り直して切り替えると、コホンと小さく咳払いを済ませた。
「いや、申し訳ない。本当に報告通りだと思ってしまってな」




