⑦殿の覚悟
重装備のオークが統一した歩幅で前進し、鉄の大壁となって騎士団に迫る。
「団長、副長をつれていきます!」
「うむ。生きている者達は可能な限り見捨てるなよ」
数人の騎士が馬に乗せたベルフォールを左右から支えながら後退を始めた。
シーダインは後退する騎士達に事後を任せ、動ける騎士達と共に殿の構えを見せる。
「残った勇敢なる騎士達に告げる。我々は、このまま敵を抑え付け、撤退する仲間の壁となる」
シーダインが剣を正面に突き向けた。
「恐れるな! 一秒でも多くの時間を稼ぐのだ!」
「「「了解!!!」」」
彼の号令を合図に、白凰騎士団は前後に騎士を並べ、迫るオークに立ち向かった。
「全軍、突撃!」
シーダインを先頭に、白凰騎士団の騎士達は鏃の陣形でオークの壁に穴を穿つ。彼は目の前のオークの鎧を次々と切り裂き、最後の一撃を後衛の騎士に委ねて次の目標へと視線を送る。後衛の騎士達は騎士総長が作った鎧の裂け目に剣を刺し込み、オークを複数の騎士で押し倒してから首や心臓といった急所を狙っていく。
鉄の布陣を形成していたオークの横隊は、鋭利な一点を貫かれて混乱し、左右両翼の連携が崩れ始めた。
「団長! 紅虎騎士団と蒼獅騎士団の殿が撤退していきます!」
シーダインの傍にいた伝令役の騎士が、馬上から見える光景を大声で伝える。
こちらも相手の陣形が乱れたことで、撤退する隙が生まれ始めていた。
だが、白凰騎士団もまた敵陣深くへと進み過ぎており、間もなく限界点を迎えつつあった。
「団長、これ以上はっ!」
「分かっている!」
オークの全身鎧を貫くこと三枚目。シーダインはついに足を止める。
その時、後方で騎士達の叫び声が響き渡った。
「ここにきて後ろからだとっ!?」
シーダインが背後を振り向く。
そこには、白い鎧の騎士が全身銀色で人の形をした何かに蹂躙されていた。金属光沢を放つ人の形をしたそれは、銀の車輪が付いた左右の足を器用に使い、まるで冬場の池にできた氷の上で曲線を描くように体を滑らせ、騎士の背後や横で木と鉄でできた筒から光と音を放っている。
「ナニヲ、テコズッテイル アモン」
急旋回で速度を落とす銀の人型は、顔のない楕円形の頭から金属が震えたような声を発した。銀の人型は、両手に持っていた筒を自分の体内へと取り込むと、別の場所から新たな筒を取り出して交換する。




