⑥撤退
「ベルフォール!」
鋭い一閃がベルフォールの頭上で放たれ、それを受けたアモンが大きく弾かれ、地面を削りながら後退した。
「だ、団長!」
ベルフォールが後続の騎士達に囲まれていた。
馬上のシーダインは、彼らの前面に立ち、アモン達蛮族の前に立ちはだかる。
「歩ける者は後退しろ! これより全軍撤退の援護を行う!」
彼は馬から降り、左手に白き大盾、右手には長年付き添った長剣を構えた。
「ですが、団長! 相手は蛮族………」
「馬鹿者が! まだそんな事を言っているのか!」
周りをよく見ろとシーダインが一喝する。自軍だけでなく、両翼の紅虎、蒼獅騎士団の前衛は壊滅状態。両翼とも何とか立て直し、後退の準備を整えていた。
「こ奴らは、蛮族であって蛮族ではない! 流れが不利な以上、ここに居続ける事はできん!」
ベルフォールを左右から支える騎士が、シーダインの指示で彼を馬へと乗せる。だが、そこへ重装オークがシーダイン達に向かって来る。
その数三体。
「舐めるなぁ! 雑魚共がぁ!」
振り下ろされる斧と金槌。シーダインは獲物の形状と速さを瞬時に見極めると、順々に敵の一撃を受け止め、反撃で縦横、斜めと重装オークを一刀の下に両断する。
「ほぉ。年寄りにしては、良い動きだ」
アモンが腕を組んだまま満足そうに頷いている。
敵将らしき亜人との距離を目視で測り、シーダインは撤退を急がせた。
「よし撤退だ!」
「いや、そうはさせねぇ」
アモンは、シーダインの間合いに一気に飛び込んだ。
だが彼は左の大盾でアモンの右手を受けると、左の爪が来る前にアモンの腹部に剣を握ったままの拳を叩き込む。
「甘いわ、小童が! この『逆撃』のシーダイン。攻撃する者は誰であろうと、手痛い反撃を受けると覚悟せよ!」
「………成程」
予想外の一撃を受けたが、アモンは一撃を受けた腹部を撫でながら不敵に微笑む。
「なら数で押してみようか」
アモンが手を上げると、重装オークが横隊を作り直し、その隙間から木と鉄でできた筒を持ったゴブリンが姿を現した。
「むっ!?」
一斉に放たれる光と音。同時に凄まじい速さで放たれた鉄球は、シーダインの鎧と大盾を何度も青白く光らせ、鉄球を次々と逸らせていく。
「そのまま前進。後退する敵部隊を追撃する」
アモンは残りの蛮族にも声をかけ、重装オークを二重三重の防壁として前進させる。




