④劣勢
「応戦だ! 各自、近くにいる騎士と攻守を組み、二人一組から四人一組へと移行しながら敵の攻撃に対応せよ! 敵は組織的に襲い掛かって来ているぞ!」
手綱を握り、馬の横腹を蹴ったシーダインが。目の前に迫って来た四匹のゴブリンに向かって馬を走らせる。そして一度に前衛の二匹を切り払い、即座に馬を回転させると後衛の二匹を馬の後ろ脚で打ち上げた。
「とにかく体制を立て直せ! 各小隊長は臨時で小隊を組み、中隊単位で集結! 野営地を放棄し、前線に向かった騎士達と合流する!」
恐らく両翼の騎士団も同じ結論に至っているに違いない。ここは一度合流し、各個撃破の危険性を排除する。シーダインは剣を掲げながら自分の位置と無事を味方に知らせ、下がっていた士気を鼓舞し続ける。
一体何が起きたのか。頭の中が整理できないまま、シーダインは、告げ気に向かった仲間達と合流すべく、草原の中へと馬を走らせた。
――――――――――
「一体何が起きた?」
ベルフォールは目の前の光景が理解できなかった。
正面ではゴブリン達が木と鉄で組まれた筒を向け続けている。正面の小さな穴からは白煙が揺らいでいたが、彼らは逃げる事も、責めてくる様子もなく微動だにしない。
にも関わらず、小さな光と音が止むと同時に、多くの騎士達が地面に倒れていた。
「一体何をしたぁぁぁぁっ!」
さらに光と音が放たれる。
ベルフォールはすさまじい速さで飛んでくる小さな鉄球に気付き、それを本能的に剣で斬り払った。
「これかっ! 我ら騎士団を狙った正体は!」
だが多くの騎士達は高速で飛んでくる鉄球を捌き切れず、さらに十数人がその場に倒れる。弓より速いそれは騎士の鎧に杭を打つかのように穴を開け、肉体にまで貫通する。倒れた騎士は全員が息絶えた訳ではなく、急所さえ外れていれば、半数以上は呻きながらも体を起こそうと必死に蠢いていた。
―――待っていれば撃たれ続ける。
「ぜ、全軍! 突撃せよ!」
ベルフォールは残存する百騎近い騎士達に号令をかけた。筒の正体は未だに分からないが、飛び道具である以上、接近戦に持ち込めば勝機があると判断しての決断だった。
案の定、筒を持ったゴブリン達は背中を向けて後退し始める。
「よし、そのまま敵陣に飛び込………」
その瞬間、筒を持って撤退するゴブリンの間から生えた長槍にベルフォールの馬は貫かれた。またも状況が理解できないまま、彼は盛大に地面に転がり落ち、白い鎧を土で汚す。
「くそっ! 今度は何をした!」
土にまみれた顔を起き上がらせると、次々と機兵達が落馬していた。
その原因は、ゴブリン達が地面に斜めに向けて固定していた長槍の横列であった。
そこで初めてベルフォールは、自分達が誘われた事に気が付く。
「そんな馬鹿な事! 相手はただの蛮族なんだぞ!」
続いて長槍を持ったゴブリンが同時に後退し、鉄の全身鎧を纏ったオークが大盾と共に、斧や金槌を持って前進する。重装オーク達は落馬して足を痛めた騎士達に向かって優先的に武器を振り下ろし、あるで畑を耕すように騎士達を地面に没していく。
起き上がった騎士達も必死に腰に掲げていた剣で対抗するが、人間では到底扱う事ができない厚さの鉄の鎧を切けず、火花と僅かな傷を付けるだけに留まる。
明らかな劣勢。
紅虎、蒼獅の両騎士団も同様の混乱を見せ、騎士達は統率が取れないまま、鉄の横隊に押し込められていた。




